地元の行政と観光組合が合同で開催する会議に女将回のメンバー達も出席したが、緊急に開催されることになり、地元の組織団体の全てが出席する重要会議であった。
議題となったのは温泉地の最寄り駅の問題で、JRが大幅な時刻改正で日に10本停車していた特急列車を、東京方面から午後3時頃に到着する1本だけに変更するというもので、それでは地域を疲弊させる死活問題だと詰め寄る駅前商店街の人達の姿も見られた。
最寄り駅から温泉地までは路線バスで15分ほどだが、1時間に1本運転されている路線バス
の本数も激減することが予想され、旅館組合はマイクロバス会社と契約する必要があるのではと深刻な問題に発展した。
地元選出の国会議員や県会議員も出席しており、何とかしてほしいと陳情を訴えることにもなったが、JR側にも諸事情があるみたいで、これも時代の流れと押し切られるような状況にホテルや旅館の経営者や女将達が憤っていた。
午後3時頃の1本となると、都心方面から来られる観光客がその1本に集中湯してしまい、各宿泊施設の送迎車にメリットとデメリットが考えられるが、訪れる観光客の人数が大きく減少
する可能性は否めず、「地方を見捨てるのか!」と糾弾する強い言葉も飛び交う会議となっていた。
女将の奈美代はその問題を大手旅行会社の役員から昨年末に聞いていたが、こんなに激減するとは予想もしなかったことで、現実となれば何か対策を講じなければと悩んでしまった。
JR側の変更に期待は出来ず、辛い泣き寝入りみたいな状況で第1回の会議を終えたが、帰路
に女将会の会長をしている旅館に集まって女将達の臨時会議が行われることになった。
そこに地元の行政の部長と、商工会議所の副会頭も出席していたが、特急停車駅が余りにも隣接している事情があり、全てを通過させるというJR側の提案に「1本だけでも」と懇願した背景があったことが伝えられ、会議室には失望感の空気が漂う環境となってしまった。
観光組合や旅館組合の役員達も、何か対策を考えなければならない結論に達し、1週間後に再度会議を開催することでそれぞれが知恵を絞って欲しいと言うことで散会となった。
奈美代達女将会のメンバーが期待を寄せるのは若手達が組織する「若旦那と若女将の会」で、これまでにも斬新な企画で集客につながったことが何度もあり、今回の大問題に何か妙案をと期待するのであった。
その日、お客様の夕食時の時間に事務所内でスタッフ達と話し合ったが、若い人達の考え方は現実的で、この温泉地の魅力を訴える企画を皆で考えることになった。
HPのリニューアルの意見もあったし、組合がバス会社と提携して都心から直行バスを運行する案も出てきたが、若い人達が「時代の流れ」に飲み込まれないように挑戦する姿勢を頼もしく思えた奈美代は、就寝する前に先代達を祭るお仏壇に火を点して報告と力添えを祈っていた。
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