景子が女将をしている旅館は海岸から少し山手に入った高台にあり、海の夕景が素晴らしいので人気があった。
近くに16軒のホテルや旅館があるが、その中の1軒の旅館が打ち出した企画が話題を呼び、若い女性客が訪れている。
それは、芸者さんの体験が出来るという企画で、芸者姿の着付けや日本髪の鬘の用意もあり、その記念写真をプロが撮影して修正して後日に届けるというもので、独特のメーキャップを担当するスタッフもおり、特別メニューとして舞妓さんスタイルもあるというのだからびっくりである。
その旅館の女将と景子は交友関係があり、何度か一緒に旅行に行ったこともあるが、今回に始めた企画のきっかけは彼女が友人達と京都旅行に行った際の体験で、泊まったタクシーから紳士と舞妓さんが降りたので着いて歩いていると、その舞妓さんが振り返った瞬間に皆が衝撃を受けたという出来事で、それは60歳を過ぎた余生だったからだった。
しばらく行ったところにある和風に甘党の店でそのカップルと一緒になったが、お2人はご夫婦で、奥さんの長年の夢を体験するためにやって来たことを知った。
京都には着物のレンタルや着付けをしてくれる店も多く、外国人観光客が着物姿で歩いている姿も多いが、舞妓さんや芸者さんの衣装で記念撮影が出来るところもあり、お客さんが多いので予約が取り難いそうで「これは!」と閃いたそうだ。
そんな姿で撮影した写真は友人や知人に見せたくなるのも心情で、すぐに口コミで広まることになり、1ヵ月先まで週末は若い女性客でいっぱいという状況となっていた。
何がきっかけで変化が生まれるかは分からないもの。彼女が京都へ旅行行かなければこんな発想につながらなかっただろうし、60歳の舞妓さん姿を目撃しなかったら決断することがなかったかもしれず、何が幸いになるか分からないものだと思う景子だった。
景子の旅館の若い女性スタッフ達もそのことを話題にしており、「私も写真を撮って残しておきたい」なんて会話を耳にして彼女達の年代が舞妓さんや芸者さんの姿に憧れているのだと思っていたら、中年を迎えている仲居達の間にもそんな会話が生まれ、多くの女性が「一度は!」と憧れの対象となっていることを知った。
他府県の旅館の女将と交友があるが、そこは「仲居さん・女将さんの体験をしませんか?」という企画があり、予想していた以上の若い女性客が来ると言っており、温泉と食事と情緒だけではない何かを提案することも重要だと考えさせられた話題であり、社長である夫と何度か話し合っていた。
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