里香が女将をしている旅館は新幹線の岡山駅から在来線の特急列車に乗り換えて智頭急行線に入った山間部の温泉地にあった。
今日は朝から特急列車から新幹線に乗り継ぎ、博多を往復する疲れ旅をして来た。目的は1ヵ月前から休職させている女性スタッフの見舞いで、仲居として勤務して1年目を迎える頃、里香が彼女の体調の異変に気付いたことから実家がある福岡へ戻らせ、治療を優先させるべきだと説得したやりとりがあった。
明るくてお客様の評判が高くて夫といいスタッフが入社してくれたと話し合ったこともあるが、1ヵ月少し前頃に何かいつもと異なる表情が感じられ、どこか具合が悪いのではと気になり、本人に確認すると2週間ほど微熱が続いて疲労感に苛まれていると知った。
すぐに女将夫婦がお世話になっている医院へ連れて行って診察を受けたら、紹介状を出されて県立病院での診察に進んだのだが、そこで判明した病気は女性特有のもので、早急に対応しなければ子供を授からない身体になる危険性があると言われた。
それでも彼女は「この仕事が好きで続けたい」と泣くので、夫と2人で説得して実家のご両親にも来ていただいて福岡の病院に入院して手術を受けという経緯があった。
「退院して静養してからまた勤務してくれたらいいの。今は身体のことを優先させるべきでは?何れ結婚するだろうし、子供が出来ないとなると寂しくて悲しいことで間違いなく公開することになるから」
そんな言葉で実家に戻ることになったのだが、幸いにして軽い手術で問題がないという結果が確認出来て安堵した里香だった。
切符の手配をしてくれたのは事務所の男性スタッフで、岡山駅からは「のぞみ」ではなく「さくら」と利用するべきとアドバイスされ、その理由として初めて知ることになり、実際に体験してみてその意味を理解した。
「のぞみ」と「さくら」の所要時間の差は数分で、料金は「さくら」の方が「310円」安いのだが、指定席の場合は座席が「3+2」の「のぞみ」に対して「さくら」は「2+2」なので随分と車内のイメージが違うのである。
「のぞみ」は16両だが「さくら」は8両となるが、JR西日本が心血を注いで開発した事情もあり、かなり上質な空間となっていた。
博多駅の構内にあるレストランで昼食を済ませ、駅前からタクシーで病院へ行ったが、規定されている面会時間より少し早目に到着してしまったが、遠方から日帰りという事情を伝えると受付のスタッフの方から許可をいただき、4人部屋となっていた病室を訪問した。
彼女は安静を強いられているので点滴を受けながら横になっていたが、勤務している時に感じた辛そうな表情がなくなり、ちょっと顔色もよくなったみたいでホッとする里香だった。
病室で30分ほど過ごしていた時、彼女のお母さんが来られ、今回のことについて丁寧に感謝の言葉をいただいたが、2週間ぐらいで退院出来ると聞いて、「ゆっくり養生してから来てね」と返した。
里香も入院した体験がある。病室の天井を見ながらこれまでのこと、これからのことなど去来することは入院体験をした立場でしか理解出来ないもの。その時の体験談を話したら彼女は「そうですね」と頷いていた。
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