何処の観光地も集客に関しては頭を悩ませている。行政の観光課を交えて何度も会議を重ねて活性化を求めて行動しているが、そう簡単には答えが見出せるものではなく、今月も定期的な会合が役所の2階にある観光組合の会議室で行われることになった。
緊急問題があれば別だが、なければ月に2回の定例会議が開催され、1回は社長会、もう1回は女将会ということになっているが、今日は両者を交えた会合となっていた。
テーマとなったのは先月の社長会で提案されたという問題で、女将会の意見を聞いてみたいということになったものだが、それは女将会の誰もが予想していなかったびっくりする内容だった。
「実は、先月の社長会で提案されて討議したのですが、一考の価値あるのではと女将会の皆さんのご意見をいただくことになりまして」
そんな組合長の冒頭挨拶から始まったが、議題が発表されると女将達が互いの顔を見つめ合って驚きの表情を見せている。会場内にどよめきが走り、しばらく騒がしくなった。
それもそうだろうテーマというのは「混浴」のことで、社長会は集客を目的に各ホテルや旅館の大浴場で混浴を実施すればということだった。
男ばかりの社長会の連中の考えそうなテーマだったが、女将会の全員に抵抗感があるみたいで、そんな空気を和らげようと組合長が調べたという混浴の実態についての情報を話し始めた。
そんな事実があることは誰もが知っていたが、それが予想以上に多かったので驚く女将達。脱衣場が別で中が一緒というシステムだが、それぞれが自分のホテルや旅館の大浴場のことを思い浮かべ、中には絶対考えられないと身震いする女将もいた。
混浴の温泉施設は北海道、東北、九州にもあると説明されたが、女将会の会長は混浴で集客につながる発想もあるかもしれないが、それで敬遠されることも考えるべきという発言をされ、女将一同はそれに同調する雰囲気になっていた。
そんな中、つい最近に混浴を体験して来たという社長がおり、「若い女性は全くおらず、元若かったという人達ばかりだった」と言ったので会場が和んだ。
女将会の会長は、全国の女将会の要職にあって多くの会議に出席しているところから様々な情報を有しており、そんな中の一つを解説してくれた。
「混浴と行っても昔から伝統としてそうなっているところもあれば、経営者の発想から実施されたケースもあり、後者は女性も男性も専用の『入浴用の肌着』を準備しています。また外国の大半の温泉観光地では水着を着用するのが常識となっており、外国人が私達の施設に訪れて大浴場を利用された場合、勘違いをされて水着を着用されていることもあるので誤解されないような案内表示も必要です」
数名の女将がメモに書き込んでいる。最近は外国人がやって来ることも増えているからだが、これに関して2人の女将が挙手をして意見を述べた。
「外国人を歓迎するような企画を考え、旅行会社や観光組合をはじめ、各ホテルや旅館のHPに明記することもするべきではありませんか」
「イスラム系の方々の対する食事の対応を行っているホテルが大都市圏に増えていますが、地方や観光地ではまだ皆無と言われています。そこで今後はイスラムの世界に詳しい専門家を招いて研修を受け、イスラムの皆さんを歓迎する企画の立ち上げも一つの道かもと考えます」
混浴の話題からイスラム問題へ変わってお開きとなったが、今後に新しいテーマが出て来たことは確かで、今回の会議は有意義になったようであった。
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