海の近い観光地のホテルや旅館で朝市を実施しているところも多いが、山間部にあるホテルや旅館は新鮮な魚介類が入手不可能なので無理となる。
そんな山間部の温泉地の小さな旅館の女将をしている静香は、随分前からロビーで朝市を開いており、宿泊されたお客様にも好評を博している。
販売している商品は地元の契約している農家の産物。早朝に収穫した新鮮な野菜をおじさんやおばさんが持ち込まれ、ロビーで格安で販売しているのだから日常で主婦という立場の女性達が購入されるのも当たり前のことだった。
そんな野菜が旅館から県道を経て市街地につながる国道に「道の駅」がオープンし、そこでも販売されることになり、旅館組合が交渉して各ホテルや旅館がお客様にプレゼント出来る割引クーポン券を企画することになった。
たった1割の割引だが、市街地のスーパーで販売されている価格からすると随分得な感じがするもので、帰路に立ち寄られて購入されるお客様も多く、道の駅を運営している地元のJAからも喜ばれている。
意外と人気が高いのは季節的に出て来る「鮎」と「アマゴ」で、「鮎」は地元の清流が友釣りの人気スポットとなっているし、「アマゴ」は上流に養殖場があるので豊富に入手可能となっている。
静香の旅館の支配人が「鮎の友釣り」で知られた名人と称されており、シーズンになると鮎釣りを目的として連泊される常連客もおられ、雨で水流が強くて釣りが出来ない場合は、お食事処で料理長が用意した「鮎の塩焼き」を囲んで昼間から宴会が行われている。
そんな鮎釣りのお客様のために「友鮎」と呼ばれる元気な鮎が生け簀にいっぱいおり、釣行に出掛けられるお客様に手渡すのも支配人の仕事となっている。
時には同行された方に「鮎の友釣り」の神髄を教えてやってと頼まれることもあるが、初心者に丁寧に教えてその人達がリピーターとして来てくださることも嬉しいことだ。
支配人が「鮎の修正を考慮して友釣りを考え付いた人は凄い」というと、料理長が「麻雀を考えた人も凄い」と返して大笑いになったこともあったが、それを聞いた社長である夫が「囲碁や将棋を考えた人が信じられない」と口出ししていたので面白かった。
市街地から鮎釣りに来られる人達が道の駅に立ち寄られることもあるが、釣り情報の案内板が駐車場にあり、そこには友鮎が静香の旅館に置かれていることも紹介されている。
コメントはこちらから
あなたの心に浮かんだ「ひと言」が、誰かやあなた自身を幸せに導くことがあります。
このコラム「小説 女将と朝市」へのコメントを投稿してください。