この数年で知られるようになったのが「足湯」で、新幹線の車内に設置されて話題になったり、温泉地の最寄り駅の構内や広場に設けられて観光客に歓迎されているようだ。
侑里が女将をしている旅館にも足湯のコーナーがあり、チェックインされた際、部屋に案内する前に「お疲れでしょうし」とご案内し、そこでウェルカムドリンクという対応をしている。
観光組合の研修旅行から戻った夫が「珍しいものがあって体験して来たぞ」と言って教えてくれたのは昨日だったが、温泉街の片隅に「顔湯」というものがあり、湧き出る湯気を利用して美肌をというところから女性に人気だそうで、それぞれの地で様々な取り組みをしていることを知った。
研修旅行は情報誌に掲載された温泉地から決められ、年に2回行われているが、毎回新しい発想につながる出会いがあり、社長か侑里のどちらかが必ず参加している。
現地の観光組合と会合をすることもあり、互いの情報交換は貴重なひとときとなり、そんな中から交流が始まった旅館も少なくないが、それらは侑里の旅館の目に見えない財産でもあった。
旅館が足湯を開設したら気を付けなければならないことがある。吹き取るタオルをいっぱい準備しておくことで、そこで対応が悪いとずっと引きずる危険性があると教えてくれたのは山陰の温泉旅館の女将だった。
数年前に侑里が参加した研修旅行で忘れられない体験があった。それは東北地方の温泉に立ち寄った際に旅館の主人が歓迎の意を込めて用意してくれたものだが、偶々捕獲した「熊」の肉ですき焼きを提供してくれたことだった。残念ながら侑里は食べることを遠慮したが、同行していた人達が珍しいと食べていたのが印象に残っている。
温泉地では「さくら肉」「牡丹鍋」「鹿肉」「はりはり鍋」「鴨鍋」などを打ち出しているところもあるが、侑里の旅館は極めてシンプルな京懐石をメインにしており、料理界で高名な料理長の存在がお客様の高い評価を頂戴していた。
お客様を部屋に案内した際、担当の仲居がプリントを出して夕食についての打ち合わせを行うのが侑里の旅館の取り組みで、造里でも10種類の食材から5種類を選んでいただくことにしているし、牛肉のステーキコースを選択されるお客様にはロースとヘレの選択も可能だし、もちろん焼き具合に関しても承るようになっている。
料理長が上げる天ぷらは別格であり、冷めない内にお出しするようにしているが、部屋でお世話をする仲居のお勧め言葉のタイミングも重要で、何度も研修を行ったこともある。
食事の最後に御飯が出るが、侑里の旅館の御飯は料理長自慢の逸品で、鯛の塩焼きの身を解したものを御飯の上に置いた物だが、この御飯が糯米を柔らかく炊いたと言うのが特徴で、料理長によると「飯蒸し」と言うそうで、添えられる柴漬けも京都から特別なルートで取り寄せており、仲居が片付けの際に御飯としば漬けのことが話題になることが多い。
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