若女将から女将となって3年の月日が流れた。もう若くないと自覚しているが江美子にはある悩みがあった。それは社長である夫がサプリメントに嵌っているからで、テレビのCMで興味を抱いたらすぐに注文をしてしまうし、その後に販売先からのメールの多さに閉口しているのである。
何でも効力があるように宣伝しているが、江美子は懐疑的に思っており、「こんなのがあれば医院も病院もいらないわ」と言い続けて来ているが、居間の片隅には様々なサプリメントが山ほど置かれている。
販売先の営業も凄くて、一度購入すると次々に新しい商品のパンフレットが届くのだが、それを見た夫がまた注文してしまうので一つの病気なのかと思っている。
そんな社長のことをスタッフ達は「サプリメントの蒐集が社長の趣味」と揶揄しているようだが、注射されるのが大嫌いな性格で、「医院や病院の世話になるなら死んだ方がまし」なんて言うのだからどうしょうもない。
もう一つ困ってしまうのが何でも簡単に信じてしまうこと。特にテレビのCMで目にするとすぐに「0120」から始まる申し込み電話を掛けてしまうからで、先月も音楽CDの5枚セットを購入してしまったのだが、届いて聴いてみたら同じ物を持っていたことが判明した。
最近にスタッフや料理長に笑われたのはテレビCMで「これだ!」と思って購入してしまった物。随分と高額でびっくりしたが、医師から油物を避けるように指導されているところから、油を使用しなくても揚げ物が可能という代物で、料理長が「そんなこと信じられません」と言っているのに申し込んでしまい。数日後に届くと好物の野菜の揚げ物を食べたいと料理長に頼み、後は揚げるだけという状態の物を作って貰っていた。
その調理器具は電気式で高温の熱風によって出来上がるみたいで、料理長やスタッフのいる厨房に持ち込んで実際にやってみたら、誰も驚くように油で揚げたような色合いになって夫が「どや顔」をしていた。
それは料理長やスタッフ達も「信じられない」と口を揃えた出来事だったが、実際に食べた夫が「これは揚げたみたいな感じだが、全く別物で美味しくない」と言ってそれから一度も使われていない。
そんな懲りないことを繰り返す夫だが、誰からも憎まれない性格が天性のよう。おかしな道楽をするよりよいかもと思って許している江美子だった。
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