この数日、おかしな問い合わせの電話があるので女将の稲子は訝っていた。ロビーの花を活けていると事務所のスタッフが小走りでやって来た。
「女将さん、また変な電話がありました」と言うのだが、問い合わせというのは大浴場に関することで、「混浴なのですか?」というスタッフの誰もが初めてという質問電話だった。
なぜそんな問い合わせの電話が掛かって来るのか不思議なことだが、その謎が解けたのはそれから1時間ほど経ってから掛かって来た電話からだった。
「女将さん、1年前にご利用くださったご夫婦のお客様が、もう一度行こうと思って電話番号を確認するために当館のHPを開けようとされたら『混浴でお勧めの温泉』というページにつながり、そこに当館も紹介されていたらしく、『いつから混浴になった?』と質問され、そんなことをしていませんよと申し上げ、来月のご予約を承りましたが、その怪しげなHPを確認したら当館の名前が出て来るのです。今、そのHPを開けたままにしていますから事務所へ来てください」
そう言われて驚いた稲子は急いで事務所でそのHPを確認したが、間違いなく当館の名前も混浴でお勧めの中に列記されており、なぜこんなことに?と不思議に思えてならなかった。
予約担当のスタッフによると、このHPはふざけたものではなく、温泉ファンの一人として実際に行った混浴のホテルや旅館を紹介しているブログ形式のものだが、掲載されている大浴場の写真が違っており、温泉地と旅館名を誤って掲載したように思えた。
このままではHPを訪問された方々に当館が混浴だと誤解をされてしまう。混浴だったら避けようと言われるお客様も多いので困った問題であり迷惑な話である。
トップページにメールのアドレスがあったところからスタッフが問い合わせ確認のメールを送信したが、その返信があったのは日付が変わる前だった。
「申し訳ございません。別の温泉地なのに記憶違いで掲載してしまったようで大変ご迷惑を掛けました。過去の日記を確認したら旅館名は同一でしたが温泉地の名称を誤ったことが判明しました。心からお詫びして訂正いたしますのでお許しくださいますよう」
次の日の早朝、スタッフがもう一度そのHPを訪問したら謝罪文と訂正について新しいページが追加されており、当館に迷惑を掛けたことも書かれていた。
その日の午前中にもう一度謝罪メールが届き、そこにはなぜ誤ってしまったのかを説明されており、この温泉地を利用されたこともあったらしく、本人も指摘されるメールが届くまで気が付かなかったことを知った。
稲子が心配したのは誤解をされた方々がおられるのではということで、スタッフがHPに当館があるブログで混浴の温泉として紹介されていましたが、当館は混浴ではございません。ブログを発信されている方も何処かと勘違いをされていたみたいで、謝罪文を掲載されてすでに訂正されていますという文章を掲載することにした。
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