雇用した時は「人材」だが、社員として教育すると「人<財>」として掛け替えのないスタッフに育つこともあるが、本人が育った家庭環境や若くともしっかりとした人生観を抱いていることが大きいようで、出会った人達の影響に左右されることも確かのようだ。
亜弥子が女将をしている旅館に昨年に入社した男性スタッフがいる。彼は大学を卒業してこの旅館に正社員として就職したものだが、3回生の時から就活を始め、面接は亜弥子と夫である社長が担当していた。
地方から東京の私学の大学に入学したが、入学金と1年目の生活費や学費は親に負担をして貰っていたが、2回生からは全てを彼自身のアルバイト収入で過ごしたというのだから苦学生活を過ごし、夜はずっと国道沿いの大きなガソリンスタンドで勤務しており、そこの経営者から卒業したら入社して欲しいと言われていたそうで、その経営者が彼の勤務振りを高く評価する推薦状を与えており、亜弥子夫婦はこんな学生は初めてという強烈な印象を受け、すぐに入社を歓迎することになった。
彼はチェックイン時やチェックアウト時のお客様の荷物を運んだりする業務を担当しているが、駐車場にあるお客様の車のフロントガラスをやウインドを全て拭く行動をしており、それはガソリンスタンドで知った特殊なスプレーを使用していた。
市販されているフロントガラス用のスプレーでは、夜間走行の際に対向車のライトが反射
してしまう問題があったが、彼の提案から購入して使用しているスプレーはそれがなく、磨き上げられた美しさは運転席に座って前方を見た時に誰もが感じることから、お客様が駐車場から玄関まで車を回された時、「綺麗に磨いてくれて有難う」というお言葉を頂戴している。
仕事をしている姿が輝いているという言葉があるが、彼はいつもそんな存在になっているし、お客様と会話をしている時の笑顔の表情は亜弥子も社長も高く評価していた。
接客業で顔色が悪いのはマイナスとなるのは当たり前で、健康に留意して内から歓迎のハートが滲み出る対応が何よりで、そんなスタッフが将来の「人<財>」となる訳である。
そんな彼は厨房スタッフや仲居達からも好感の声が出ている。いつも快活に行動しているし、「腰が軽い」「フットワークが軽い」という存在になって職場関係を明るくしてくれていることも嬉しいことで、亜弥子夫婦は彼を入社させたことが大正解だったと喜んでいる。
そうそう、そんな彼のご両親を旅館に招待したことがあった。彼には内緒で来ていただくことにしたのだが、玄関にお2人がタクシーで到着して「いらっしゃいませ。お待ち申し上げておりました」と声を掛けた彼の表情が一変して、絶句した時の光景はスタッフ達の話の種になっており、「参りました。親孝行が出来ました」と招待に対する感謝の言葉が亜弥子に伝える出来事があったのは2ヶ月前のことだった。
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