昼前に昔から交流のある旅行会社の部長が来館。女将の江美子も社長である夫と共にラウンジでサンドイッチの昼食を進めながら、最近の旅行に関する情報を教えて貰った。
彼は長年JRに勤務していた歴史があり、出向というかたちで現在の旅行会社に移ったが、その仕事振りから役員が部長に就任することを勧め、3年前から現在の役職として勤務している。
営業に行っていた夫と不思議なことに気が合ったみたいで、出張で上京すると食事や居酒屋へ一緒する交流もあり、江美子の旅館にとっては送客に関する部分で有り難い関係でもあった。
今回は地元の行政とのイベントの打ち合わせで立ち寄ったものだが、昼食を済ませると市役所に行かなければならないので「温泉でのひとときを」という勧めも無理と言うことになった。
今、旅行会社の世界ではホテル業界と共に懸念する問題が浮上していることを知った。それはネット社会にも潮流になりつつある「民泊」の存在で、行政が基本的な構築を進めている内に勝手に蔓延ってしまい、大都市圏のホテルの客室稼働率に影響が出て来ていると指摘しており、世界的な観光地として知られるフランスのパリでは深刻な状況を迎えており、廃業に追い込まれるホテルも出て来ているというのを初めて知ることになったが、彼はこの問題は大都市圏のホテルだけではなく、何れ観光地の温泉旅館まで影響が出る危険性があるので旅館組合と行政がしっかりと対策を進めるべきとアドバイスをしてくれた。
この問題については旅館組合の役員会で何度か話し合ったことがあると夫が言ったが、想像以上に早く影響が及ぶ可能性があり、早急に会議を開いて会員全体に危機感を募らせる必要があるという結論に至った。
江美子は半月後に女将研修会で上京するが、その時に食事をご一緒にという約束をして玄関までお見送りしたが、彼は夫の運転する車で市役所に向け旅館を後にした。
いつも知らなかった情報を学ぶことになるので貴重な人物だが、彼が全国のホテルや旅館の関係者に信奉者が多いのも理解出来るし、夫との深い交友関係が結ばれていることを嬉しく思った江美子だった。
そうそう、彼が市役所で打ち合わせをするイベントだが、台湾の温泉地と姉妹提携を結び、台湾から宿泊サービスの人達を迎えて交流をするというもので、来年のことだが、県内では江美子の旅館のある温泉地が宿泊候補になっているという嬉しい期待もあった。
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