在来線の特急列車が停車する駅が最寄り駅だが、そこからタクシーで15分ほど離れたところに十数軒のホテルや旅館がある温泉地があった。
香苗が女将をしている旅館はこの温泉街でも小規模な方だが、客室稼働率は高く、様々なオリジナルサービスを提供していることがその要因になっていた。
玄関がある方に県道が通っており、裏側は清流の川が流れているが、すぐ近くの橋の横の河川敷に町営のテニスコートがあり、春休みと夏休みは高校のテニス部の合宿で人気があった。
そんな合宿の企画を打ち出しているのが隣接するホテルだが、恒例みたいになっている子の高校は日本のテニスのジュニア界では特筆されるほど知れており、錦織選手の活躍から入部する生徒が増え、合宿の参加者も今年は40名を超していた。
生徒達は5人ずつの部屋が与えられ、コーチや先生方で1室となっており、合計で9室を提供していると聞いたが、合宿中に関係者や家族の人達が訪れることも多く、時には満室となって香苗の旅館に「空室がないか?」と電話があることも少なくない。
同業他社から紹介された場合は、ケースバイケースとなっているが、紹介手数料という問題が一般的で、香苗の旅館は1割のキックバックを行っていた。
この町営テニスコートは数年前間で地元の高齢者のゲートボールグラウンドになっており、あるホテルがゲートボール大会を定期的に企画したら他府県からやって来る人達が多くなり、ゲートボールの甲子園みたいというところまで知られるようになったこともあった。
ゲートボールは熱くなって対戦者同士で争いに発展することもあり、4年前に暴力事件が発生して町が使用禁止ということを打ち出したのだが、勿体ないという意見もあって旅館組合が地元選出の県会議員に陳情してテニスコートに生まれ変わった歴史があった。
グラウンドを整備する費用の一部を旅館組合が負担することになったが、大学や高校のテニス部合宿で人気となり、多くの宿泊施設に恩恵があるので喜んでいるが、地元の老人会の人達がグラウンドゴルフが出来るように要望書を出したことも話題になっており、近々に組合で会合を開くことになっているが、そうなればテニスの合宿で使われることがなくなり、大きな影響を受けるホテルも出て来るので問題を秘めている。
社長を務めている夫この温泉地でゴルフが一番上手と言われているが、高齢になって老人会に入会してグラウンドゴルフに参加したら、初参加で優勝してしまったという逸話もある。
ゴルフをやっている人なら距離感や方向性について優れており、夫は「優勝して当たり前」と豪語していたが、地元の高齢者の人達にはかなり衝撃だったようで、「あの人はグラウンドゴルフの天才だ」と噂が流れているのだから面白い。
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