「さて搭乗しようか」と立ち上がったのは搭乗客の列がもうすぐ終わるという段階で、搭乗口のスタッフに「まだビジネスクラスのお客様が!」と驚かれたが、夫は杖を手にゆっくりと機内へ入って行った。
第2キャビンの最前列の席はバシネット対応として、前の壁に赤ちゃん連れの乗客の場合に簡易ベビーベッドがセッティング可能なようになっている席だったが、その日は赤ちゃん連れの乗客がなかったみたいで、他にも空席がいっぱいあった。
過去に利用した国際線ではファーストクラスやビジネスクラスの搭乗客には様々なグッズが入ったポーチを貰えたが、この便ではその対応はなく、それぞれを単品で必要な人達が取るシステムになっていた。
夫はそれについて「往復で4個をゲット出来るので土産になると予定していたのだけど」と残念がっていた。
席は10年ほど前に導入されたシェルフラット型で、貝殻のような形の中でシートを倒せるようになっているので後席の人に遠慮する必要がないので楽だが、最近に多くの航空会社が導入してフルフラットタイプではなく、170度程度なので少し滑ってしまうようなことも感じ、フットレストを活用する必要があった。
機内食は3種類から選択自由となっており、偏食の酷い夫のことを考えて互いが別の物にして食べられる物をどうぞということを嘉代子が描いていた。
それぞれにペットボトルの水が準備されていたが、機内は空気が乾燥するので対策は重要なことで、水分補給も大切な行動として考慮するべき問題だった。
「お好きな物をお好きな時に」というキャッチフレーズを謳っていた日本航空だったが、機内食が済んでから1時間ほど経った頃、夫がCAに何か頼み事をしている。それが面白い出来事として土産話になるのだから紹介しておこう。
夫が頼んだのは機内で出される日本航空と日清食品のコラボで提供される「うどんですかい」「そばですかい」「らーめんですかい」の3種で、寝る前にちょっと食べたくなってと「そばですかい」を頼んでいた。
しばらくするとCA夫の席にやって来てテーブルをセットしてナフキンを掛け、箸を置いてギャレーに戻り、湯を満たした「そばですかい」を持って来てくれたのだが、テーブルの上に置くと「3分間お待ちください」と言ってギャレーに戻った。
夫が笑っている。「ギャレーで3分経って、食べられるようにしてから持って来るべきでは?客に『おあずけ』みたいにさせたらサービスじゃないよ」とぼやいているが、旅館の経営者だからそう言ったのではなく、それが常識ではないかと共感した嘉代子だった。
シドニーまで9時間と少しの飛行時間だが、シドニーに早朝に着くし、すぐに乗り継がなければならないのでかなりハードなスケジュールだ。少しでも寝ておかなければとシートを倒して寝ることにした2人だった。
目が醒めて外を確認してみると明るくなっており、進行方向の左側が朝焼けみたいになっていた。そんな頃、CAが朝食の機内食を持って来てくれた。今度は2人共同じで洋食タイプを選択していたが、卵が中心の料理になっていた。
食事が終わってコーヒーを飲んでいるとCAが入国カードと優先パスを持って来てくれた。夫が入国カードに記入を始めている。何度も調べて憶えて来た通りの内容みたいで問題なく書き込んでいた。
それが終わると夫が優先パスについて次のように言った。
「これには抵抗感を抱いている。空港内のラウンジは高額な料金を支払った乗客にサービスを提供する航空会社それぞれが空間を準備するのは納得だが、本来平等であるべき公的な場所での優先パスはおかしいと思っている」
この飛行機がシドニーのキングスフォード・スミス空港に到着する時間は、世界中から飛んで来る多くの飛行機が到着するところから大混雑状態になり、入国審査や税関検疫が長い行列になるみたいだが、夫は「乗り継ぎ便のことがあるので今回は仕方ないので使わせて貰おう」と言った。 続く
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