1年に2回、県立病院でスタッフ全員が健康診断を受けている。また3か月毎に採血検査を義務付け、接客業で最も子本的なことで重要であるスタッフの健康管理に気を配っている。
これは先代社長の時代から続いていることで、スタッフがお客様に見せる表情は健康という内から出るものではないという理念からだった。
女将の喜保子も今年で52歳になる。5歳年上のがこの旅館の社長を務めているが、数年前に耐震対応に大規模なりゆーある工事を行っており、その際に銀行から融資を受けた借り入れ金が現役を終わるまでに返済したいと頑張っているが、大病を患うことだけはないように健康診断を受けることに積極的だった。
そんな夫婦に赤信号が見つかった。胸部のレントゲン検査で喜保子の肺に何か疑問があるということから、数日後にCT検査を受けることになったのである。
県立病院の放射線科の窓口に書類を出し、廊下で名前を呼ばれるまで待機しているひとときは逃げ出したくなるような重たさを感じる。やがて名前を呼ばれて検査室へ喜保子が入って行ったが、検査撮影の時間は20分少しでも、この待ち時間に考えることはネガティブなことばかりで、夫はそれだけでも精神的な病を患ってしまいそうだった。
検査撮影を受けたのは午前中だったが、画像診断の専門家が確認した後で内科の主治医から説明を受けることになっていたが、院内にあるレストランで昼食を食べることにしたが、2人とも全く食欲もなくなっており、互いが最悪の想定を想像しながら慰め合う時間となっていた。
午後1過ぎ、内科診察フロアの窓口で書類を提出、予約時間を確認した受付スタっフが中の待合室へ入るように説明し、夫婦はその先生の名札が掲げられている診察室に近い廊下の長椅子に腰を下ろした。
診察室の扉が開いて看護師さんが喜保子の名前を呼んでくれたのはそれから30分後の午後1時半を少し回った頃だった。夫婦揃って診察室に入り、優しそうな表情をされた年配医師の説明を受けたが、机の上の壁に喜保子の受けたレントゲン写真とCT画像が照射されて見易く貼られていた。
「奥さん、ご主人さん、さぞかし心配をされたことでしょうが、このCTの画像からすると問題はないようですので安心してください。ただ今後の追跡は重要で、半年毎にCT検査を受けていただきたいですね」
先生の話によると肺の一部に小さく光る部分があるが、それが半年後に大きく成長していればガンという可能性も考えられるそうだが、最悪のガンと想定されても年齢的にガン細胞が大きくなるパーセンテージは低く、「99%大丈夫です」と言われても、夫婦はその「1パーセント」が気になるものだった。
病院の玄関を出ると、急に空腹感を抱いた夫が「なにか食べよう」と言ったので喜保子も何か安堵感に包まれたが、これまでに体験したことない精神的な疲れを感じていた。
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