風光明媚な湖の高台に8軒の旅館が存在しているが、互いの結束は固く、キャンペーン活動にも心を一つにして取り組んでおり、大都市圏の大きな駅でタスキを掛けてパンフレットを配布する女将達の姿は有名だった。
駅の構内で勧誘行為やパンフレットを配布することは駅長の許可を得る必要があるが、鉄道会社にも利用して貰うメリットもあるところから随分昔から続いており、その光景が何度も新聞記事や週刊誌に採り上げられ、春と秋の観光シーズンを迎える前に行われるこのイベントは、今や風物詩と呼ばれるようになっている。
温泉は名湯として知られているが、湖の景色だけで集客するのは簡単ではなく、経営者の組織する会や女将会では互いに共通するサービスを打ち出し、ある意味最近で言われる「町興し」を昔から積極的に取り組んでいたことになる。
この旅館組合の新しい取り組みに料理長会という組織があり、個性と職人肌が当たり前の料理人達が定期的に研修会を開催しており、今では拘りの食材の情報交換まで行われており、この旅館組合が全館で特別な食材に拘る厳しい料理長会の審査で選択されていることを謳い、グルメに興味のある方を対象とするイベント企画も提案して話題を読んでいる。
ここまでの歴史には紆余曲折があった。みんなで団結して一段となって互いが向上しようと行動するきっかけになった事件があり、それはこの町の旅館の関係者には忘れられないものである。
随分昔のことだった。ある大手旅行会社の管理職の人物が友人達を伴って一軒の旅館を利用。酔っ払って考えられない狼藉を働き、その上に宿泊料金で破格な割引を強制されたものだが、旅館側は理不尽な要求に徹底して戦う姿勢で臨んだところ、その相手が旅館に対する悪い風評を流すような行動を始めたことから訴訟に発展し、事実を知った全ての旅館が団結して旅行会社の紹介を拒否することを公表し、事実を知った旅行会社の社長が謝罪、当事者を解雇して和解する出来事があったのである。
それを機に何事も全ての旅館で取り組むという絆のようなものが強くなり現在に至っているのだが、少し離れた地にある同じような規模の温泉地では、廃業する旅館が多くなって閑散となっているところから比較すると信じられないほど活気があり、中々予約が取れない温泉地として知られるようになっている。
旅館組合と町の観光課と協議して取り組むことになったのが夏の花火大会と年金受給者を対象とする割引企画、「年金受給が始まった人生の記念に温泉へ」というキャッチフレーズが話題を呼び、特別なサービス企画もあるので多くの高齢者夫婦が利用しているそうだ。
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