祐子が女将をしている旅館はホテルと旅館が20数軒存在し、十数年前に結成された女将会の活動も活発に行われていた。
今日の昼食時に合わせて女将会の研修会が組合の会議室で行われたが、テーマは各社が開設しているHPについてで、その中に女将の写真を掲載している所とない所があって、それぞれのメリットとデメリットについて講師が面白く触れていた。
「美人を売り物にしたら女性を敵にします」「撮影時のイメージが重要で、化粧もほどほどにして、やって来たらイメージにギャップを感じさせないように」という提案で会場内が賑やかになっていた。
この温泉地でも女将が登場しているHPもあるし、三つ指をついてご挨拶をしている光景を演出しているものもあるが、今日の講師の指摘したいことで重要なことは「女将は旅館の顔であり、品を訴えるイメージが大切」ということだった。
祐子は美人の部類に入るが、HPがリニューアルされた際に掲載するかしないかで論議されたが、写真をコピーしておかしな修正を施す悪戯をする人達の存在もあることから、そんなことで話題を呼びたくないという祐子の意見で見送られた秘話があった。
この温泉地で最も大きなホテルのHPに女将の写真が掲載されているが、それは女将が目立ち過ぎるという意見が多く、女将会の中でも話題になっていた。
彼女の考え方は「私がホテルの広告塔なの。目立つようにデザインして貰ったの」と涼しい表情でそう説明していたが、そのホテルのスタッフ達にも評判が悪く、誰か第三者の専門家が指摘してくれないかと期待している事実も起きていた。
今回の研修会を発案したのは彼女の夫でそのホテルの社長だったが、入り婿で権力が弱く、今回の講師にも女将が是正することに気付くように依頼していた。
「私達がお客様の担当です」と部屋係の仲居達全員の写真が掲載されているHPもあるが、すでに退職してしまっている人物をそのままにしていることから本人から「削除して欲しい」と要望があったことも聞いていた。
料理に関する写真を掲載することにも配慮が必要である。仕入れによって異なる問題もあるし、何より「旬」を伝えておく必要があるからだ。
海が時化で荒れたり海水温の変化で収穫変動が発生することもあり、いつでも提供出来ると勝手な想像を与えてしまうことは問題で、そこには仕入れの問題などの事情を添えて逃げ道を作っておくことも重要なのである。
講師が最後に指摘した意見に興味を覚えた。それは、プランのページから予約へ移る際のお客様の心理で、料金を確認したいと思っているだけなのにそれには予約のボタンを押さなければならないケースはそこでUターンしてしまう可能性が高いということで、折角興味を抱いてくださったお客様を逃がしてしまうと考えたら勿体ない話である。
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