1990年代のことだった。W杯で対戦するコートジボワールの大統領夫妻と前後の席になった出来事があった。
ヨーロッパ旅行の予定を終え、パリから成田へ飛ぶ日本航空を利用したのだが、空港でチェックインに行くと赤絨毯のある専用カウンターが大混雑している。荷物が散乱するような状態で置かれ、軍服姿の人達がいっぱいいる。ファーストクラスのカウンターでこんな体験は初めてのこと。仕方なく後方で待機していたが、一向に進む気配がない。理解出来ない時間が20分程過ぎた頃、男性スタッフが気付いたみたいで「お客様は?」と言葉を掛けてくれた。
そこで予約していた航空券を見せると「失礼いたしました」とすぐに手続を進めてくれ、二つあった荷物をカウンターまで運んでくれた。
保安検査を済ませてラウンジで過ごし、搭乗案内があったので機内へ入ったが、席に着いてから30分経ってもドアは開いたまま。機内アナウンスで「ご出発が少し遅れておりますが、しばらくお待ちくださいますよう」と流れた。
動きがあったのはそれから15分後だった。20名ぐらいの人達が搭乗され、その内の4人がファーストクラスへ。他の人達は当時にエグゼブティブ・クラスと呼ばれていた現在のビジネスクラスへ行かれた。
機材は747型機のジャンボだったが、私の席は右側の喫煙可能な席で前から4列目だった。
4人の内の2人は軍服姿で、金髪の女性を伴った人物が私の前の3列目の席に着かれた。
やがて離陸して水平飛行に入った頃から機内食が始まったが、メニューを見ながらホテルのレストランみたいな食事時間を過ごした。
CAが片付けに来てくれた時、前の人物が喫煙をされ、紫煙が天井に上がた。体験したことのないよい香りに触発され、私も当時に吸っていたハイライトをくゆらせた。
それから1分も経たない内に前の人物が女性のCAを呼び寄せて何か言っている。CAはチーフパーサーで、すぐに私に話し掛けて来た。「恐れ入りますが、一つ後ろの席にお変わりいただけませんでしょうか?」と言われてびっくりした。
どうやらハイライトの香りが強烈だったみたいで、後で知ったことだが、前の人物の喫煙は上質な葉巻だった。
一つ後ろの席に変わってから聞いたら、その人物が象牙海岸の国の大統領であることを知った。コートジボワールとはフランス語で象牙海岸だそうである。
畏れ多くも他国の大統領夫妻にハイライトの紫煙で影響を与えてしまった訳だが、それだったら空席がいっぱいあったのだから離しておけばこんな事態にならなかったと思っている。
「お迎えの関係で大統領ご一行は最後に降りられますのでお先に」と案内されたのは成田への着陸態勢に入る前だったが、彼女の声が気の毒なほど掠れてしまっていたことが印象に残っている。
そして降機してしばらく行くと、赤い絨毯が敷き詰められている。もうそこから両側に多くの人達が整列されていたので緊張したが、それは二度と体験出来ない貴重な思い出となっている。
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