様々なご仏縁に結ばれ、全国あちこちへ出掛けられたことは有り難いことだったが、昔から温泉好きだったところからホテルより温泉旅館を好んで利利用することが多かった。
面白い体験もいっぱいあるが、そんな中から印象に残っているのが九州の「杖立て温泉」にある「ひぜんや」という旅館。大分県と熊本県の県境にあり、豊後の国と肥後の国に跨る旅館として知られていた。
友人達と宿泊し、大浴場に行こうかとエレベーターで下に降りたら、そこは玄関やフロントの階下にあり、長い廊下をしばらく進むと足下に線が描かれている。我々が宿泊した部屋は中央にある「本館」だったが、その線が大分県と熊本県の境界線。そこで大分館と熊本館の境目となっていた。
その友人達の奥さん連中がある温泉に行った際の話が面白かった。10人ほどで小旅行を計画したそうだが、行先に選択したのは船でしか行けない温泉。秘湯として「通」の人達に人気があるのだが、旅館に到着してチェックインして2部屋に別れたところで問題が起きた。
「嫌だ!ここ、何処かで見たことがあると思っていたらやっぱり!」と言い出したのは最も高齢の女性だった。見たというのは「観た」ということなのだが、テレビのドラマでこの旅館で撮影された連続殺人事件。部屋や露天風呂のことまで鮮明に憶えているそうで、船で到着した時から「!?」を感じていたそうだ。
確かにその旅館をロケ地として構成されたドラマは少なくなかった、その大半がサスペンス系で、中にはスリラー的なシナリオもあったことは事実である。
「私、ここ駄目。私、何処か他の所へ行きたいわ」と無理難題に発展したそうだが、わざわざ船を出して貰うことも迷惑な話。みんなで宥めて夕食時間を迎えたが、ご本人は絶対に一人になる行動を避けられ、露天風呂にも入らず、浴衣のまま湯船の側で待っていたそうだ。
実は、私もこの旅館で撮影されたサスペンスドラマを観たことがある。一人が部屋の中で殺害され、露天風呂で2人目の被害者がというストーリーだったが、こんな展開をよくも旅館側が協力したものだと疑問を抱いていたら、実際にそんな恐怖感を憶えていた人があったので「さもありなん」と思ってしまった。
テレビの番組に協力するのはよいが、そんな殺人現場という強烈なインパクトは避けるべきだろう。その後も2回ほど別のドラマでロケ地になっていたが、相変わらず同じような展開だったので行く心情にはならず、その女性の抱かれた思いを理解する立場となっている。
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