時代の流れに観光地の旅館業も変化している。ネット社会になって大手予約サイトが登場し、送客されたお客様が口コミに投稿されることもあり、極めて当たり前のことなのに批判の対象になることもある。
口コミへの酷い内容の投稿に立腹したある旅館の女将が反論すると、大変な騒ぎに発展して炎上になってしまった出来事も起きている。
予約サイトから申し込まれたお客様が口コミサイトに投稿されることが多く、旅館側も毎日チェックし、書き込みがあればサイト上で返信する対応をしているが、これが大変な仕事で、最近の頭の痛い問題の一つとなっている。
スタッフ達が全員集まって会議をすることを月に一回行っているが、ある若い男性フロントスタッフから提案された議題について様々な意見が出た。それは最近に多くなったペットを同伴可能というサービス企画で、彼がチェックアウトされるお客様に「ここもペットが同伴出来たらまた来るのにね」と言われたことが2回あるというものだった。
来年ぐらいにリニューアルの予定があるが、ペット同伴というサービスを始めるなら設備も考えなければならず、情報雑誌を読んだ女性の事務スタッフが「ペット専用のお風呂があるホテルもあるそうよ」と発言、そんな流れからその方向へ話題が集中しそうな時だった。
「はい、皆さん。ペットのお話はここまでとします。当旅館はあくまでも『人様のみで進めます。私が女将である以上この考え方は変わりません。確かにペットを家族のように可愛がっておられるお客様もあるでしょうが、それを対応するなら別棟を建設する必要があるでしょう。来年のリニューアルでも別棟や離れを増設するつもりはありません。ペット同伴が可能だからと当館をご利用くださるお客様も考えられますが、ペット同伴の旅館だから行かないと思われるお客様もおられると思います。だから当館は頑なに『人様』に拘ります。最近によく耳にする言葉『ホスピタリティ』にしっかりと取り組んでください』
ペット同伴に関してはここで議題から外されることになったが、女将は続いてリニューアルで考えたいことが一つあると予想もしなかった提案が出て来た。
半月前、女将は嫁いだ娘さんファミリーと四国へ2泊の旅行をしていた。2年前に誕生した初孫となる女の子を溺愛しており、アンパンマンの作者の故郷にあるアンパンマンミュージアムに同行していたのである。
「娘婿が運転する車であちこちを観光したのだけど、娘が2泊目に選んだホテルが素晴らしくてね、隣接する部屋の中で行き来出来るコネクティングルームって、祖父母にとって有り難くて歓迎するものだと確信して来たの」
女将の提案は家族三世代が過ごせる部屋の提供も重要ということで、リニューアル時に壁の一部を扉にして対応出来る工事も考えていた。
ホテルでコネクティングルーム対応があるのは少なくないが、大規模な旅館でないこの旅館がそんな発想に取り組むことはびっくりだが、営業を担当しているスタッフは、三世代という言葉がキャッチフレーズとして訴えるパワーをイメージしながら、「賛成です」と洒落乍ら発言して会場が一気に盛り上がることになった。
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