その日の仕事を終えて自室に戻り、頂き物の和菓子を夜食代わりしながらテレビを観ていた女将の鞠美だが、ニュース番組の中で新しく大臣になった元女性アナウンサーのことが紹介されたのを観て、ふと彼女の昔のことが語り継がれている逸話みたいなことを思い出した。
現役のアナウンサー時代のことだが、放送の中で「たこ焼き」を食べる企画があり、彼女がそれを口にして口腔内を火傷してしまい、慌てて飲み込んでしまったことから咽喉や消化器官まで影響を及ぼし、入院するハプニングがあったことだった。
大阪の人間なら「たこ焼き」の内部がどれほど熱いかは常識として認識しているが、そうでない人達にはご存じでないことも考えられ、彼女もそんな被害者の一人となってしまったようであった。
ある雑学に詳しい人物が、「たこ焼きには爪楊枝が2本以上付いて来る。これは1本で穴を開けて中の熱を逃がすためだ」なんて教えてくれたが、食べる前に水などの飲み物を準備しておくことも大切で火傷をしないように気を付けたいものだ。
鞠美にはこの「たこ焼き」でもう一つ忘れられないびっくりな出来事が印象に残っている。それは10数年前に夫が東京に出張した際に仕入れ先の社長に連れて行って貰った銀座の一流クラブでのこと。
空腹気味だった夫のことを思ってママさんに「何か食べる物を」と頼んだら、しばらくすると「たこ焼き」5個を皿の上に並べて出してくれたそうだが、随分と時間も経っていたし、熱くなかったので離れた何処かで買い求めて来たものだと夫は思ったそうだ。
そのクラブで過ごす時間が流れ、やがて支払いということになって割り勘を考えていた夫を遮り、取引先の社長がカードで支払ってしまったのだが、後学のためにその費用がどれほどと興味を抱いた夫が伝票を見せて貰うと、「後学」はそれこそ「高額」になっており、あの「たこ焼き」が「3500円」となっており、「1個」が「700円」になるのだから衝撃をを受けて戻るなりその体験談を聞かせてくれた。
夫は「銀座のクラブでウイスキーやブランデーで高額な料金設定は仕方がないが、『たこ焼き』3500円はないだろう」とぼやいていたが、鞠美には信じられない世界の話だった。
観光組合の組合長が大阪の北新地のクラブへ行った時のことを話していたことがあった。入って座るだけで5万円。酒類販売店で1本5000円のウイスキーが50000円になると驚いていたが、そんな信じられない高級クラブに行く人がいるのも信じられない思いがしており、夫から銀座での体験話を聞かされた時に「絶対にそんな所へ行かないで」と話していた。
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