組合の会合に出席した女将の穂香は、これまでに聞いたことのない事件がある旅館で起きていたことを知り、勘違いや勝手な思い込みが時には予想もしなかった出来事を発生させることになることを学んだ。
その事件は仲庭の庭園にある池を露天風呂と間違って入ってしまったという事件で、高齢の男性が廊下の扉を開けて池の中へ入ろうとしていた光景を目にされた別の客さんが、血相を変えてスタッフに伝えたことから発覚したものだった。
ご本人はかなり高齢の方。ご夫婦で来られていたが、眼鏡を外すと鮮明に見えず、チェックイン時に部屋に案内されるのに廊下を通った時に中庭の池を勝手な思い込みで露天風呂と信じ切っていたのである。
それは誰が考えてもおかしなことになる。露天風呂が廊下を通られる方々の目に入る所に存在する筈はないし、池には錦鯉も泳いでいるので間違うことはないとおもうのだが、ご本人は「手入れが行き届いた庭園風露天風呂だと思った」ということだった。
駆け付けたスタッフが大浴場からバスタオルをいっぱい持参して温まられるように大浴場にお連れしたが、奥様から「少し認知症がありましてね。ご迷惑を掛けました」と謝罪の言葉があった。
大浴場では様々なハプニングが発生するもので、同じような脱衣籠が並んでいるので間違って他人の物を身に付けて部屋に戻られたケースや、間違って女性の湯の方に入って混浴だと思い込んでいた人もいたのだから信じられない話である。
旅館組合の事務長が混浴について詳しく、過去に講演をしてくれたこともあったが、現在の別府温泉にも3箇所の存在があるし、「覗き目的」で入っている人達のことを「ワニ」と呼んでいると言っていた。
平成5年に1200軒もあった混浴も平成25年には700軒に減少したそうだし、昭和23年に「公衆浴場法」が制定され、10歳以上の混浴は原則禁止されているが、これは一般的な銭湯を対象にしたものらしく、ホテルや旅館の大浴場に波及することはなかったようである。
別府があり「温泉県」を打ち出している大分県でも昭和47年に条例を制定、原則として禁止ということになっている。
浴場施設の許可に関しては保健所への申請による許可も必要だが、脱衣場が男女別になっておらなければならないが、例外として外国のような水着着用は問題ないようである。
江戸時代には幕府が再三禁止を指導するようにしたが、庶民の混浴文化は衰えなかったという史実も伝わっているし、100年前頃に混浴が奨励された面白い歴史事実もあり、それは男女の区別なく、国境を超えて交流を温めるという嘘みたいなキャッチコピーが存在していたと話していた。
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