数日前に目に留まった新聞の記事が気になり、「近い将来にそんな時代が」と心配になった優里奈だった。
優里奈が女将をしている旅館は昔から名湯として知られる温泉地にあるが、最近の外国人の観光客が多いことも気になり、行政も改革や対策に乗り出すことが目立って来ている。
大阪府が来年1月から「宿泊税」を徴収することが可決された。10000円~15000円が100円。15000円~20000円が200円。20000円以上が300円となっていたが、すでに100円と200円を徴収している東京都に続いての導入となる。
現在全国の温泉では消費税は別として入湯税だけが課税対象となり別途にお客様にご負担願っているが、近い将来に観光地のホテルや旅館にも「宿泊税」が課せられるかもしれない可能性があり、社会の流れに様々な業種の変化が生じることも考えなければならないと理解していた。
外国人の訪日が増えたことからホテル不足の問題が発生し、それに乗じてビジネスホテルがびっくりするような料金設定を打ち出して物議となっているが、そんな事情から登場したネット社会の「民泊ビジネス」の問題が表面化、東京や大阪の大都市圏では6泊7日以上で様々な条件を設けて認定する方向で進んでいることも気になっていた。
東京都では大田区などで特区制を進めており、25平方メートル以上の広さや外国語表示による利用案内を義務付け、自治体首長の認定を要する制度だが、果たしてそれで問題が発生しないのだろうかと懸念を抱く優里奈だった。
女将という仕事は社会の変化に敏感でなければならず、優里奈は旅館に嫁いでから4大紙と日経に目を通すのが日課となっており、スタッフ達から「物知り女将」と呼ばれる別称もあった。
日々に学ぶそんな知識はお客様と交わす会話にも役立っているが、優里奈には先代女将から教えられたことをずっと遵守していることがある。それは「耳が二つに口が一つ」という教えで、常に傾聴の姿勢で臨み、申し上げることは必要なことだけということだった。
この姿勢はお客様のお部屋へご挨拶に参上した際にも重要なことで、お客様が気持ちよく喋りたいことをお話になることも「おもてなし」の重要なキーワードと考えるようになっており、それらはお客様からいただくサンキューレターの内容にも感じられることが少なくなかった。
今日のお客様から過日に東京へ出張された際に体験された出来事を聞いたが、かなりお怒りのご様子だった。
「女将さん、おかしいと思いませんか。ビジネスホテルが35000円もするのですよ。2年前に10000円以下で宿泊出来たのに。考えられますか?」
需要と供給のバランスということは理解出来ても、これは本当に酷い事実だと思う。行政も民泊の制度化に取り組む前に、そんな悪質な宿泊施設を指導する方が先決だと思う優里奈だった。
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