チェックアウトをされる全てのお客様をお見送りし、玄関の片付けとロビーの掃除を手伝っている女将の美紀は、落ち着くとロビーの表側にある喫茶コーナーのテーブルで売店を担当している女性スタッフ藤村由美にいつも日課となっている紅茶を出して貰っていた。
そんなところへ事務所で予約を担当している男性スタッフ村川義男が姿を見せ、美紀にブログを発信するように勧めて来た。
村川によると多くのホテルや旅館のHPにブログの存在があり、支配人のブログ、スタッフのブログも少なくないが、目立って多いのは女将が発信している物で「女将のブログ」「女将のひとりごと」「女将の独り言」「若女将のブログ」などがあると知った。
ティータイムを済ませてから事務所に入ると、「女将さん、これをご覧ください」とパソコンの画面を見るように言われ、回転椅子を彼の隣に寄せて注目していたら、次々にそんなページを開けたのでびっくりすることになった。
<これをお客様がご覧になっているとすれば>という思いが過り、見事な文章力で綴っている世界もあって衝撃を受けることになったが、知らなかった世界がこんな状況になっているとは想像もしなかった現実だった。
美紀が最も驚いたのは同じ温泉街にある旅館の女将が発信しているブログで、3年前からスタートしており、村川が見せたいと思っていた目的がこれの存在だった。
美紀は手紙を書く能力に長けている。宿泊されたお客様から届くお礼状に返信する際の内容は美紀ならではのレベルがあり、村川は前から勿体ないと思っていたから行動に出たものだった。
「村川さん、私も何か書いてみようかしら。でもパソコンを打ち込むことは出来ないし、時間を掛けて教えてくれる」と言うと、彼は「書かれたら僕が打ち込みますよ」と返してくれた。
彼はブログの文章表記に関して様々な注意点を教えてくれた。日記風にするのはよいが、誰が見ているか分からないので触れた内容の人物が特定されないこと。感動した出来事でもその日にあった事実を変更して後日に書くなど、基本的な問題から始まって考えもしなかった奥深い裏話も教えてくれた。
原稿を書いてスタッフにパソコンで打ち込んで貰って発信するのも何か負担を与えるように思った美紀は、これを機にパソコンを自分で打ち込めるように勉強してみようと決断し、村川に教えて貰うことになった。
村川が提案したのは、美紀専用のノートパソコンを購入すること。そこで後日に村川が出掛けて買って来てくれることになった。
全てを村川に任せて進めることにしているが、彼の描いたシナリオは美紀が発信するコーナーは旅館のホームページのトップページにリンクボタンを設置するもので、週に一度は発信して欲しいと言われたが、多くの女将達が発信している現実を知った美紀は何か今すぐにでも始めたい心情が生まれていた。
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