最近は食物アレルギーに神経を遣わなければならないので大変である。もしも提供した食材から大変なことになったらと思うだけで気が重くなるし、この問題については何度もスタッフ会議を重ね、専門家を招いて講義を受け、全ての従業員が理解していた。
厨房にいる料理長へ出す注意情報も赤い紙を使用するようにしており、同じ物を仲居達が通る厨房から廊下に出る手前の壁にも掲示されており、厨房からワゴンで出る際にも女将自身が最終確認をしているのでミスに至ることはないだろうが、書き込む際に間違って書いていたらと思うとゾッとする話である。
ある若いご夫婦が幼い子供さんを伴ってご利用された際のことだが、この子供さんの食物アレルギーはこれまで対応した中で群を抜くレベルで、お母様がご自分で専用の食材を持参されるような予約になっていたが、前日まで予約係がお客様とのメールで何度もやりとりを繰り返し、「問題のある物」「問題のない物」を確認させていただき、その情報から料理長が特別な「お子様ランチ」を創作して対応された。
案内した部屋係の仲居が厨房へ戻った時の情報で、その女の子が大好きなキャラクターがアンパンマンであることを知り、料理長は前から女将の命で用意してあるアンパンマンのキャラが入った食器で準備。スプーン、ナイフ、フォーク、お箸も全てキャラ入りになっていた。
女将の菜穂は先代女将が体験した話を聞いており、若女将から女将になった時にそのサービスの具現化を始めていた。先代女将の体験話というのは現在の社長、つまり菜穂の夫が幼い頃に旅行に連れて行った際のことだが、行先は熊本県の水俣の近くにある「湯の児温泉」だったが、木造の古い2階建ての旅館に宿泊したら、女将の心遣いが素晴らしくて感動し、部屋に案内されるなり子供の身長を確認してすぐに子供用の浴衣を用意してくれたものだったが、その時の子供の喜びは初めて目にする光景だったというものであった。
それを「かたち」にしようと考えたのが菜穂の行動だが、3歳から5歳までの子供用浴衣を用意、その柄は「キティーちゃん」「アンパンマン」「ピカチュー」「ドラえもん」の4種類で、それぞれの生地を探して和裁の技術に長けている仲居頭が縫い上げたものであった。
部屋係の仲居がアンパンマンの浴衣を届けたら、子供さんも大喜びされたが、お母様が「有り難う」と感動され、すぐに床の間をバックにデジカメで記念写真を撮影された。
やがて始まった夕食タイム。テーブルの上に運ばれて様々な料理の中にアンパンマンの食器に彩られたお子様ランチがあった。それを目にされた子供さんが嬉しそうに喜んでいる。ご両親も顔を見合わせながら「よかったね」と頷かれている。旅とはこんな幸せをプレゼントが行われる場であるのだ。
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