歴史と伝統のある旅館の女将である香奈枝の朝は早く、隣接する住居から午前5時半には出勤し、まず確認するのが厨房での朝食の準備で、アレルギーなどの問題が承っているお客様の情報を確認することにしている。
旅館の料理長や厨房スタッフ、また仲居達も夜遅くまで勤務しながら早朝出勤なので新入社員がそのハードな現実に驚くことも少なくない。
フロント担当のスタッフも交代制でも24時間対応が原則となっているので大変だが、雇用均等法や男女同権の観点から女性スタッフが男性スタッフと同じ仕事をすることもある。
朝食の確認を終えた香奈枝はロビーから玄関に出て、配達されている朝刊を手にロビーに戻り、見出しだけ目を通すのが日課となっているが、ちょっと気になるニュースがあって関連の情報をネットで確認することにした。
それは、北海道の温泉旅館の大浴場でお客様が倒れて亡くなられた出来事が過去にあった事実で、その原因が源泉に含まれている硫化水素で、その濃度がかなり高数値だったようである。
大浴場の湯船の底からブクブクと源泉が湧いて来る温泉も少なくないが、その中に硫化水素が危険度に達しているとすれば深刻な問題で、浴場全体の換気についても確認する必要があることになる。
香奈枝の旅館の大浴場にも源泉から湯船の底からブクブク出て来る環境があり、この温泉地ではそれを売り物にしているホテルや旅館も多く、旅館組合全体でチェックする必要があるようだ。
地元の観光協会の行動は迅速で、午前8時過ぎに各加盟施設にFAXが入り、午前11時に旅館組合の介護室で緊急会議を招集された。
保健所から担当者も参加してくれるそうだし、県内に存在する大学の教授にもアドバイスを求めるために出席をお願いしたみたいで、もしもお客様にそんな被害が及んで被害が出たら温泉地のイメージダウンは著しく、それこそ各施設が最も恐れることであり、この迅速な対処は高い評価を受けていた。
香奈枝の旅館の源泉を管理担当しているのは副支配人だが、彼と相談すると浴室内の気体の濃度の確認を専門家に調査して貰うべきとアドバイスされ、会議に参加した時に保健所の人や大学教授にお願いしてみようと考えた香奈枝だった。
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