部屋食での夕食時にご挨拶に参上する日課は女将の由紀の大切な仕事だが、その時にお客様から伺うお話は本当に貴重なことが多く、そこから学んだことが多くあり、その後に大いに役立つことになっている。
今日チェックアウトされたお客様から拝聴した話は衝撃的内容で、お部屋に参上した際に次のようなやりとりがあった。
「女将さん、この旅館のHPは中々のレベルで好感を抱きました。何より女将さんのご挨拶の内容が秀逸で、それを読んでこの旅館に決めたのです」
「ご満足に至らないかもしれませんが、私をはじめスタッフ全員で一生懸命担当申し上げます」というような文言だが、文章だけで由紀の写真の掲載はなく、代わりに三つ指をついて玄関でお迎えしている可愛いイラストがトップページにあった。
「女将さん、私はクリエーターという仕事をしていましてね、HPの監修を依頼されることも多いのですが、旅館やホテルのHPは女将さんの存在をどう伝えるかがキーワードでしてね。私の会社が依頼を受けて製作した旅館のHPで、女将さんと意見が合わずに大変なことになった体験があるのです」
それは2年前に起きた出来事だそうだが、製作側が女将の挨拶文だけと提案したのに本人が写真を掲載することに拘った事件で、どう説得しても納得に至らず仕方なく掲載したらネットから予約されるお客様が激減したというものだった。
「女将さんの人柄は素晴らし方だったのですが、写真から伝わってしまうイメージにギャップが生じる危険性があり避けたいと言い難いことまで申し上げたのですが、納得されなかった結果がそうなってしまったのです」
スタッフの意見も「写真は掲載しない方が」ということでまとまっていたらしいが、それをご本人に直接伝えることは出来ず、女将の周囲は結果的にイエスマンばかりということになってしまっていたことを知った。
「聞く耳持たず」という言葉があるが、プロが提案することには何か事情が秘められている筈で、それを受け入れなかったら結果がどうなるかは歴然であり、こんな世界のプロ達が客観的な立場になって製作に取り組むのも常識だった。
「それで、そのHPはその後にどうされたのですか?」と聞いてしまって<興味本位で不謹慎な質問!>と反省した由紀だったが、この出来事は同伴されていた奥様もご存じで、奥様が当時にかなり話題になったその出来事の顛末について教えてくださった。
「女将さんが旅館の顔と言われているでしょう。HPに写真を掲載されるなら『品』を重視するべきで、あの時は誰一人として賛成する人がなかったのにご本人が裸の王様みたいになってしまわれたのですけど、社長であるご主人が変更を決定されましたの」
そのクリエーターと言われた人物は、プロとして製作を胆とする時に重視するのはキャスティングで、その事件も妥協するべきでなかったと後悔をされていた。
由紀の旅館のHPをリニューアルしたのは昨年の秋だったが、依頼した専門家が「トップページは可愛いイメージで」と、イラストを選択した事情に「そうだったんだ!」と理解した由紀だった。
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