昭和23年に制定されたホテルや旅館に関する法律には、伝染病や賭博を目的とする宿泊客以外を断ることは出来ないようになっていたが、今年度中に法改正が進められることになり、俗に言われる「迷惑客」を断ることが可能になるようだ。
外国人観光客の増加や最近に注目を浴びて話題となっている「民泊」の登場があるからかもしれないが、人種差別などはいけないが、例えば女性客オンリーということも可能になるかもしれない。
路子が女将をしている旅館は団体客をお断りする個人客のみの旅館だが、業界では高級旅館として知られる存在で、社長をしている夫のユニークな考え方が話題になったこともあった。
「お客様がご自由にホテルや旅館を選ぶことが出来る。それならホテルや旅館がお客様を選んでもよいではないか」というものだが、この提唱があちこちから猛批判の対象になったのは誰でも想像出来るだろう。
夫はそんな自分の考え方を貫きたいところからリニューアル工事で設備を充実させ、内見会で招待した人達に驚かれたが、特に話題になったのは旅行会社業界で、難しいお客様を送客する場合に路子の旅館が選択されるようになった。
そんな事情もあって高額な宿泊料金を設定していても客室稼働率は高く、リピーターとして再来くださるお客様が多いことも女将夫婦の喜びだった。
料理長をはじめとする厨房スタッフや仲居達も「当館は特別な旅館である」という認識を誇りとして抱き、胸を張って接客に取り組んでおり、それらはホテル業界で知られる「お客様は紳士淑女である。その方々のお世話をする我々も紳士淑女でなければならない」という言葉を社長から厳しく教育されており、ネットの口コミの中にも特別な存在の旅館として紹介されている。
料理長が拘っているのは食材で、夕食や朝食の「お品書き」に生産者名まで表記しているのだから驚きだが、それは想像以上にお客様のご満足につながることで、夫と共にいつも食材を探求している。
夕食時にお部屋にご挨拶に参上している路子だが、リピーターのお客様が来られた場合には料理長を伴って行くことにしており、ある時、料理長が「お品書き」の中にあった「土瓶蒸し」の召し上がり方が3種あると言う解説をして、お客様がびっくりされてご納得された出来事があり印象に残っている。
「土瓶蒸しは添えてございます『すだち』にポイントがありまして、『すだち』入れない味をお試しいただき、次に御猪口出汁と『すだち』を併せてお召し上がりください。そして器の中に『すだち』を絞っていただいてどうぞ」
「この『すだち』は徳島県産でも最高と言われている物を厳選したしております。『すだち』はビタミンCの宝庫と呼ばれ、酸っぱく感じられるのは『クエン酸』でレモンの2倍と言われています。『スタヂオン』と『デメトキシスタチン』が含有されており、これらはイライラやストレス解消に効果があるそうです」
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