お客様のチェックアウトが済み、ラウンジでコーヒーを飲みながら新聞に目を通していた女将の八代は、ある記事に目が留まって読み込んだ。
それは外国人の観光客の来日が増え、都市圏で宿泊施設が不足している現実への対策として政府が対応を始めるというもので、規制の予約サイトに大きな影響が出るのではと思えるシステム構築の紹介だった。
大都市圏のホテルの客室稼働率は80%を越え、週末には満室状態から予約が取れない状況も多くなり、ビジネスホテル系なのにシングル1万円を週末には3万円を打ち出すホテルも登場し、外国からの環境客だけではなく、国内のビジネスマンからも不評が出ている最近である。
政府が乗り出すのは大都市圏から地方までの全てを含め、空室情報を公開するサイトを立ち上げるというもので、予約につながっても既存の紹介サイトより紹介料を低額にしていることが特徴で、発足すればかなり予約市場に大きな変動の波が押し寄せるような気がした八代だった。
この新聞記事の問題は町の観光課の担当者から旅館組合の幹部にもその日の内に伝えられ、出来たら地方の温泉観光地にもメリットが及ぶシステムにならないのかと、地元選出の議員を窓口に政府担当窓口や行政の官僚にも積極的に働き掛けることになった。
これまでに前向きな提案で何度も会合が開かれたが、こんなに迅速に行動が始まったのは初めてのことで、それだけ期待が寄せられていることになるだろうが。一方に秘められている危機感が表面化したようだった。
既成の紹介サイトから強い抵抗感が生まれると想像出来るが、お客様への情報提供ということからすると歓迎されるだろう。
ホテルや旅館側にとっては紹介手数料が低額ということが歓迎され、その予約サイトからの新プランの企画を立ち上げるところも増えるだろうが、観光組合の事務長が独り言みたいに発言した言葉が気になった。
「こんな仕組みでスタートして、汚職につながる構図はないのだろうか」というものだったが、贈賄、収賄事件が出ないことを願う八代だった。
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