朝食は昨日の夕食と同じ食事処だったが、時間はゆっくり目でお願いしていた。母がこの温泉の湯が気に入ったみたいで、早朝と朝食前の2回も入浴するからだった。
温泉は乳白色や金泉、銀泉という名称もあるが、無色透明より色があると効能があるように感じるもので、褐色の湯が母の持病を和らげてくれるような気がして見守っていた。
朝食は和洋食のコースで進められ、添えられてあったミルクが如何にも北海道らしく美味しい物で、母が「お代わりお願い出来ますか?」と言ったので担当スタッフが驚いていた。
部屋に戻って忘れ物がないように確認をして階下へ行こうとすると、「ここの温泉よかったね。また来たいね」と母が名残深そうな溜息を。「また来ましょう」と合わせてエレベーターでロビーへ行ったら、宿泊支配人という人物がお土産まで用意されていたのでまたびっくり。改めて大手旅行会社の部長というポストのパワーを知ることになった。
予約してあったタクシーで洞爺駅に向かう。到着して15分程で「特急 スーパー北斗」が時刻表通りにやって来た。2人の席は「2+1」の通路から「1+2」につながる場所で、どうしてこんな車内設計にしたのだろうかと疑問を抱いたが、乗客の少ない車内は歓迎だった。
進行方向に向かって左側の席だったが、車窓から内浦湾が近くに見える。別名「噴火湾」とも呼ばれることも知られているが、室蘭から真向かいの駒ケ岳が見えるのに特急列車で走っても約2時間も要するので随分と距離がある。洞爺駅から函館駅まで「153キロ」もあるのだから北海道は本当に広く、駒ケ岳がずっと見えていても中々近付かなかった。
昼頃に到着。函館駅の構内にあるレストランで昼食を済ませ、駅前のタクシー乗り場で乗ったタクシーの運転手さんに観光巡りをお願いしたら、興味を感じるコースを説明されて3時間コースを決めた。
「函館山」「金森洋物館」「八幡坂」「五稜郭」「ハリストス正教会」「旧凾館区公会堂」などを巡った後、今回の北海道旅行で最後の宿泊地となる「湯の川温泉」の旅館へ夕方に着いた。
函館の宿泊先だけは真理子が決めていた。「竹葉新葉亭」という老舗の和風旅館で、ここを選択したのは二つの理由があった。一つは真理子の旅館を利用されたあるご夫婦が、「函館ならお勧め」と言われていたからで、随分と旅慣れた方が推薦されたこともあるが、その奥様が装着されていたイヤリングが素晴らしく、それがこの旅館の売店にコーナーがあると聞いていたからだった。
真理子はその奥様が付けられていたイヤリングを部屋に参上した際に見せていただき、それが水引細工であると知って驚くと同時に一人の女性として絶対に欲しくなり、それを目的に函館に行きたいとまで考えていたのだからそれこそ惚れ込んでしまったというべきだろう。
部屋での夕食が済んだ後に売店のコーナーに行ったら、目的の物が並んでいる。イヤリングの他にもブレスレッドやネックレスもあり、どれも見事な代物で真理子はそれを自分の旅館の売店でも置きたいと考えていた。
創作されているのは「清雅舎」という会社で、来る前にネットで調べてある程度は理解していたが、画像と実際に手にするのとは全くイメージが異なり、それこそ「質感」が別物となるレベルだった。
部屋に戻って控えて来ていた番号で「清雅舎」に電話を掛け、函館に来ていて会うことが出来ればと伝えるとチェックアウトの前に旅館のティーラウンジの所へ来てくださることになり、持参された様々な作品を拝見しながら自分の旅館でも起きたい旨を話し、販売よりも「素晴らしい物をお客さんに見ていただきたいから」と伝えると、清雅舎の女性社長が「嬉しいことです」と話が進展することになった。
そうそう、この旅館のことも触れておこう。「絶対にお勧め」と言われて利用したら、間違いなくお勧めの旅館だった。真理子の旅館も学ぶことが多く、幾つかメモをして整理したこともあるが、母がリンゴの木が見える大浴場でリンゴの浮かんだ湯がいい香りで印象に残ったと満足していたし、朝食が和風旅館らしい内容で最高だった。
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