就寝中の出来事だった。未明に何かおかしな声に気付いて目を覚まし、部屋の照明を明るくすると夫が「背中に激痛を感じている」と布団の上に座り込んで苦しんでいる。
背中に激痛と言えば考えられる危険性は心疾患で、心筋梗塞の前兆ということに心配した小寿恵は「救急車をお願いしましょうか?」と声を掛けた。
「座ったら少し楽なった。救急車までは必要ない」と言ったので少しホッとしたが、時計を見るとまだ5時前。夏で夜明けが早いがまだ外は暗い。このまま治まって欲しいと願いながら冷蔵庫から冷たいお茶を持って来て飲ませた。
外が明るくなった頃、夫は「嘘みたいに痛みが消えた」と言ったので安堵したが、一度診察を受けるべきではと提案したが「もう大丈夫みたい」と受けなかった。
また異変を来したのはそれから1週間後のことだった。寝返りも不可能なほど酷い腰痛を訴え、朝方には不思議と治まるが、その兆候が三夜続いたので気になった。これまでに何度か「ぎっくり腰」を体験している夫だが、「こんな激痛は初めてだ」と訴えていた。
しかし、それも4日目からは出なかった。それから数日後の夕食時のことだった。旅館の社長と女将という夫婦なので夕食の時間も晩めだが、いつも350の缶ビールを飲むのに不思議と飲まないので「どこか悪いの?」と聞いてみた。すると夫は「実は」と次のような症状を訴えた。
「数日前から腹部に重たい鈍痛を感じているのだけど、徐々に強くなって来ているみたいで何かおかしいのだよ」
そんなことから次の日の朝、いつもお世話になっている診療所の先生の診察を受けることにし、診察室の中にも同行した。
夫が訴えた兆候から先生が腹部を触診されている。押さえて「痛みはどうですか」と質問すると「少し痛いです」と返した夫だが、先生が触診の手を離された時に「痛い!」と声を上げた。それを聞かれた先生が次のように言われた。
「間違いなく腹部で異変を来しています炎症のようです。紹介状を書きますからすぐに県立病院の救急外来に行ってください」
紹介状を貰った2人はそのまま県立病院へ向かい、救急外来の窓口に保険証と紹介状を提出し、待合い室で待っていると名前が呼ばれて診察を受けた。
症状から一つの病気が考えられたみたいで、採血が済むとCT検査室は連れて行かれた。
検査が終わって待合い室に座っていると、診察を担当されていた先生がやって来られ、「立派な膵炎です。このまま入院となります」と言われたが、何も準備をしていなかったので、夫と共に病室に入るとすぐに車で旅館に戻り、スタッフに事情を説明してから着替えやパジャマの用意を整えた。
それらを手提げ袋に入れて車に乗ろうとした時。支配人がやって来て「膵炎ですか。私も前に入院したことがありますが、数日間は絶食で点滴だけという辛い入院になりますよ」とアドバイスをされた。
病室に入るとすでに点滴が始まっていた。夫の話によると採血の結果でアミラーゼとリパーゼの数値が異常に高く、CT検査の結果通りに間違いなく膵炎ということが判明。看護師さんが持って来た関係書類を貰って持ち帰って書き込むことにしたが、担当医の先生の話では10日間程度の入院が必要ということだった。
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