ある葬儀が地域の会館で行われていた。秋の好天に恵まれた日だったので多くの参列者に暑い寒いの問題もなく、引導まで時間を要する宗派でも焼香までの待ち合わせの時間に抵抗もなかった。
大阪の葬儀は導師が務めて途中で重要な儀式である「引導」や「表白」が終わった後、弔辞やお別れの言葉があり、それが終わると弔電の代読が一般的だが、地方へ行くと導師が退出されてから弔電の代読が行われるケースが多い。
大阪の式次第では弔電代読が終わって導師の読経が始まると遺族と親族の指名焼香が始まり、喪主と主だった親族が立礼の場に揃ってから各種団体代表者の指名焼香が進められている。
そんな葬儀の光景が一変したのは代表者焼香が始まった頃だった。赤色灯を回転させた覆面パトが前を通り、少し通り過ぎた所で停車。降りて来た人物が接待担当の女性スタッフに何か話しかけている。
しばらくすると彼女が司会台の所までやって来たが、言葉を発っすることは代表者の指名焼香中だったので躊躇していた。
「あのう、警察の方が責任者と話したいと言われています」と伝えたのは代表者の方々の焼香が終わって会葬者の随意焼香が始まった時だった。
只ならぬ様子で警察関係者がやって来たことは不思議なことだが、けたたましいサイレンを鳴らさずに来たことに勝手な想像を抱きながらパトカーの停まっている所まで行った。
「お取込み中に申し訳ないのですが、我々も仕事なので仕方なくやって来たのでご理解を」と言われた事案用件に衝撃が。何と「葬儀を中止して欲しい」というものだった。
何か特別な事情があるようだが、それについては詳しく触れられず、ただ「中止を」というだけなので、葬儀の責任者として事情の説明のない状況で中止は出来ないと反論したら、「これは公務になりますから」と言うので下手をすれば公務執行妨害に抵触する危険性もある。
しかし事情も分からずにただ中止せよというのは理不尽である。そこでもう一度事情について質問すると「ご遺体を預かる」というので唐突な話。何があってそんなことにと疑問の包まれたのは当たり前であった。
数分のやり取りから判明したのは警察署に匿名の電話があったからで、故人の死因ついて調査をするというものだった。
それなら葬儀が終わってからというのが常識という思いがあって上司に電話をしてくれるように頼んだら、その勢いに押されたように担当上司という人物に電話を掛けてくれた。
「葬儀の最中に中止せよとはおかしい。そんな公務は誰が考えても非常識です。少なくとも終わってからというのが常識では?」
そんなクレーム的な発言に上司の方も驚かれたようで、何かの誤解で現場にやって来た担当者が中止発言をしてしまったみたいで、葬儀終了後で結構ですとなったが、それならもう一つ進んでご出棺を済ませ、火葬場から搬送するように出来ないだろうかという提案。。時間で30分与えてくれるだけで親戚の方や参列者への問題も解決可能なシナリオになる。
そんな提案に「分かりました。担当者と代わってください」と言われてこちらが提案したストーリーで進められることになった。
少しこの出来事の経緯について補足するが、故人は階段の上から足を滑らせて落下されて
救急車で緊急入院されたもので、車内で救急隊員に自分で滑って落ちたことを話していた事実があった。
匿名の電話の主はそんな事情をご存じではなく、一昨日までお元気な姿を見ていたところから通報したらしいが、警察担当者も救急隊員への調査をしていたらこんなことにならなかったと考えてしまう。
結果として火葬場に向かう途中で救急隊員への聞き込み確認をして解決に至ったが、ちょっとしたことから大変なことになるものである。
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