ホテルで「お別れの会」や「偲ぶ会」が始まったのは随分前だが、ホテルや旅館が「法要」に関して積極的に取り組むようになったのも事実である。
観光地のホテルや旅館の中に法要のパンフレットを準備しているところもあるし、HPに「法要」のページを設けているところも少なくない。
朱美が女将をしている旅館も法要に対応しているが、地元の葬儀社と提携をして満中陰、1周忌、3回忌などに積極的に取り組んでいた。
その提携先の葬儀社からの紹介でご遺影を飾るための白木の祭壇まで購入、それを撮影してパンフレットに掲載していたら、宿泊にご利用くださったお客さんから「おかしい」と指摘され、詳しく事情を伺ったらその方は業界では有名な葬儀社の経営者で、「葬儀みたいに白木祭壇を飾る法要なんて基本的に間違っている」と説明された。
葬儀とは「取り敢えず」行われるもので、そんな考え方から「白」を用いているが、法要は取り敢えずではないので白木はおかしいと指摘された訳である。
そんなことを考えたこともなかった朱美は、ご迷惑だが徹底的に教えていただくことにして、その方の部屋で遅くまで教えていただくことになった。
そこで学んだことを「かたち」として具現化させたのが現在の法要プランだが、そこには白木の祭壇なんて姿を消し、センスの素晴らしい塗りの現代的なデザインの飾り段が掲載されていた。
また、本格的に法要に取り組むなら料理のことも勉強する必要があるとアドバイスをされ、料理長が精進料理を学ぶために京都に出掛け、万福寺などで行われている「普茶料理」を体験して来ていたので随分と奥行きが深くなったことも事実であった。
朱美は交流のある女将仲間を誘い、勉強のために高野山に参拝して宿坊に宿泊。そこで出された精進料理の素晴らしさに驚き、戻ってから料理長と何度も試行錯誤を繰り返して料理の幅をグローバルに広げていた。
実際に法要で提供させていただいた料理に出席者が驚嘆され、その地ではベストワン、オンリーワンという存在に至ったが、偶々ご利用くださったお客様がその世界のプロだったことが幸運だったことになり、その方がお帰りになる際に「これも何かのご仏縁ですね」と言われた言葉が印象に残っている。
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