お客様が到着されてチェックインを済まされると担当の仲居が部屋へ案内するが、その途中で館内の案内をするようにしているが、特に気を付けているのが非常時の避難経路で、何が起きるか分からない想定が重要だと考える社長の方針からだった。
女将の登代もそれについては徹底した教育をしており、館内には避難誘導経路の矢印がびっくりするほど多く掲示されているのでお客様が驚かれて不安を抱かれることもあるが、当館はお客様の安全を第一に考えていますからと説明しなさいとも指導されている。
この旅館では3年前にリニューアル工事を行った際に全ての部屋の寝室を別に設け、スタッフが寝具の準備に入る必要もなくなり、そこで謳っているのがお客様のプライバシーの重視で、「お呼びがなければ原則としてお部屋へは参りません」「ルームキーをお渡ししてからお部屋はお客様の世界です」というキャッチフレーズだった。
「ご不明なことがあれば24時間体制で承りますのでフロントへお電話を」という表示もしているが、夕食の場所をお部屋かお食事処かは時間を含めてチェックインの際に決めていただくシステムになっているし、夕食時に朝食に関することも確認するようになっている。
朝食について説明する時にお客様がびっくりされるのは、その選択の自由で、お部屋と食事処の両方が可能だし、和朝食、洋朝食、レストランでのバイキングがあってご夫婦でもお互いが異なるというケースもあるので面白い。
夕食時に「あなたは和朝食が好みでしょう。私はバイキングがいいわ」という会話を耳にすることもあり、これも旅の体験談として話題となるので喜ばれている。
夕食時にそれぞれの人数分が把握出来るので無駄なく準備出来るが、バイキングだけは少し余裕があるように準備することが重要で、足りなかったなんて問題になれば最悪なので、
社長も女将もバイキングには抵抗感があるが、この地のホテルや旅館の大半がHPでバイキングを打ち出しており、仕方なく半年前から始めた経緯があった。
この決断に至る時までスタッフと何度も協議を行ったが、最後まで反対の姿勢を見せていたのが料理長で、和食の料理人である彼は「洋朝食」を始める際にも強い抵抗感を示していた歴史もあり、時代の流れでお客様の選択肢を優先するべきということで説得した社長と女将の苦労の秘話もある。
そんな料理長が面白い。夕食時に朝食の振り分けを確認して和朝食が多いとご機嫌になることで、それを知る仲居達が夕食時に和朝食を勧めているという事実も伝わっている。
料理長の拘りは全ての食材を厳選していることで、一夜干しの魚を探すのに漁港周辺の店舗を全て回ったという話も知られている。
最近目立って多いのが、薬を服用されるお客様の姿。食前服用もあるし食後の服用もある。全ての仲居に服用される薬への配慮を考え、すぐにお水が用意出来るようにと伝えている。
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