春子が女将をしている旅館は30件ほどのホテルや旅館がある内陸部の温泉地にあり、もう80年の歴史がある老舗で、建物は古いがその建築物が文化財のような存在と言われ、温泉通の人達には人気が高かった。
この温泉地には温泉観光組合があり、県の観光課とも深い絆で結ばれていたが、つい最近に予想もしなかった問題が表面化した。
温泉街から車で10分ほどの所にバブルの時代にオープンしたゴルフ場があるのだが、厳しい経営状態から破綻することになってしまい、クラブハウスに隣接している宿泊施設も閉鎖されてしまったからである。
このゴルフ場には温泉観光組合も出資しており、何とか存続を願っていたが、こんな都心から離れたゴルフ場に来るなら宿泊施設が閉鎖されてしまったら誰も来場することもなく、このまま黙って廃れるのを見ているしかないような状況だった。
温泉観光組合は県の観光課と何度も協議を重ね、何とか存続するにはゴルフ場の利用客に宿泊旅金を安くして組合に加盟しているホテルや旅館が協力するしかなく、春子の旅館にもそんな相談があった。
ゴルフのパックは信じられないような低料金で、1泊2食付きの2日間プレイを含めて2万円を切るのだから宿泊料となると1万円以下になってしまう。この温泉地の最も低い1泊2食付き宿泊料金は10800円で、春子の旅館では最低が1万3000円だった。
この温泉観光組合の加盟店が協力しないと、ゴルフ場を利用する人達が激減するどころか皆無というのは誰もが分かること。投資している分も消えてしまうので組合としても厳しい苦渋の選択を迫られている。そこで結論に至ったのが各加盟宿泊施設で特別料金を提示すること。それで都内からゴルフ客を呼び込もうという算段だった。
ゴルフのお客さんが宿泊可能なホテルや旅館が数軒となるより何処でも可能とする方が歓迎されるだろうが、そうなるとお客さんの方が選択で偏ることも考えられ、悩みに悩んだ組合が打ち出したのは宿泊に関してゴルフ場に隣接する宿泊施設の再開で、追加金を出せばホテルや旅館も可能という2段構えの提案だった。
これなら各宿泊施設が自由に料金設定をオープン化出来るし、お客さん側が自由に選ばれるのだから問題はない。話し合ってゴルフ場の宿泊施設には交代でスタッフを出し合うことになったが、何とか観光課の広報も協力して貰えるようになり、債権者にも歓迎されることになった。
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