予約を受けた際に聞いていた食物アレルギーに関して伝達ミスが発生したが、夕食の始まる前に「抜いてくれているだろうね?」とお客様から確認されて発覚。女将が平身低頭謝罪して料理長が別の食材で早急に調理して出されることになった。
もしも体調を崩されて入院することにでもなれば大変で、事務所内のマンネリの中で発生するミスの恐ろしさを再認識することになったが、この問題がまた次の事件を引き起こしていることを知った。
そのお客様がチェックアウトをされる際、「考えられないミスを仕出かしました。宿泊料金はいただけません」と固辞したが、「そんなことをされたらこちらの気が済まない」と半額という折衷案になったが、プロとしての立場としては納得に至らず、数日後に謝罪の心をしたためた手紙に「無料招待券」を同封して郵送した。
ところが、この「招待券」が新たな問題に発展した。招待券をパソコンで創作してくれたのは事務所のスタッフだが、デザインこそ変更していたが、記載文字に関しては年末に感謝の思いでお世話になっている人達に「お歳暮」として送付している招待券と同じで、数日後にお客様から次のような返信があって衝撃の事実を知った。
「その節はお世話になりました。何より食する前に対処出来て安堵しましたが、わざわざご丁寧にお手紙まで頂戴して恐縮しております。しかし、同封の招待券は使わないとはっきりと申し上げておきます。貴旅館を利用して気に入っており、妻と『また行きたいね』と話し合っていました。次回にお世話になる時はウェルカムドリンクと食事の際にデザートを一品増やして添えていただければ甘党の妻が喜びます。結びに招待券に記載されていた文字ですが、謝罪の意を表わすなら『2年間有効』という期限はおかしいですね。謝罪に時効はないと考えますが如何でしょうか」
何ということをしてしまったのかと瞬間に確認するべきだったと後悔したが、ミスの総責任者は自分である。改めてお詫びの返信をすることになったが、ミスというものはちょっとした隙間に発生するもので、これだけは二度と体験したくない苦い出来事となって心の中に突き刺さっている。
そのお客様が再来くださったのは1年後のことだったが、予約の電話をいただいた後にメールが届き、次のように書かれてあった。
「お世話になりますが、前にお知らせしたように招待券は使いませんからチェックイン時にお返しします。宿泊料金は正規料金で対応ください。出来ればウェルカムドリンクと夕食時のデザートを一品プラスいただければ幸いです」
こんなお客様にミスをしてしまった訳だが、考えてみれば理不尽な要求をして来るクレーマーより恐ろしいとも言えるだろう。その日から当日までどんなことをして心情を伝えるべきかずっと悩んだ女将だった。
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