柚葉が女将をしている旅館は福岡空港からバスで2時間ほどの温泉地にあるが、博多港へ中国からのクルーズ船がやって来るようになってから中国人のお客さんが増えた。
大型のクルーズ船なら5000人ぐらいが乗船しており、港の駐車場に観光バスが100台も並んで待っているのだから圧巻だが、中には数時間の滞在だけで再乗船して次の目的地へ向けて出港してしまう行程もあり、博多港周辺の小売関連の店舗にはメリットがあっても、距離の離れた地域にはプラスとなる影響のないこともあった。
観光組合が大手旅行会社と提携をして、そんな中国の団体観光客を積極的に受け入れ入れるようになっていたが、4月の熊本の大きな地震の発生からキャンセルが相次ぎ、どの温泉地のホテルも旅館も想像もしなかった現実を迎えている。
そんな中、旅行会社と観光組合の話し合いが行われ、宿泊料金を下げて対応することになったのだが、この背景の事情が表面化して物議になっていた。
俗に言われる「足下を見る」という値下げの要望だが、中国人観光客が支払っている旅行費用は従来通りで、値下げした差額を搾取しているのは中国の旅行会社で、これまでにおそんな行動の歴史あったことを日本の大手旅子会社の担当者から教えられた。
このままでは九州の観光産業の疲弊は避けられず、何か支援される対策はと話し合っていたら、政府の予算から観光客の旅行費用の支援をしてくれることが決定し、熊本県と大分県だけではなく、パーセンテージは異なるが、福岡、宮崎、佐賀、長崎、鹿児島も対象になることになった。
一部温泉地では地震以降に源泉の湧出量が激減して営業出来ないケースもあるし、田んぼから温泉が出たところもるので不可思議だが、新しくボーリング工事を余儀なくされた宿泊施設のことを考慮すると、組合全体でフォローするような体制も進めるべきだし、金融機関からの融資に関しても互いがバックアップするシステムの構築も必要だろう。
柚葉の旅館は軽度の被害だけで済んだので幸いだったが、お客様が激減したことはどうにおならず、女将会の会合で博多駅や福岡空港へパンフレットを持参して営業パフォーマンスをしようという意見も出ており、組合でそのパンフの原案を創作中である。
社長である夫も京阪神、名古屋、横浜、東京へ営業に出掛けているが、旅行会社の担当者の意見によると、余震に対するお客様の抵抗感は想像以上で、余震が収まってくれることを皆で祈っている昨今である。
コメントはこちらから
あなたの心に浮かんだ「ひと言」が、誰かやあなた自身を幸せに導くことがあります。
このコラム「小説 女将、現実に向かって」へのコメントを投稿してください。