毎日20組程度のお客様を迎えるが、その大半が高齢のご夫婦で、奥様が和服姿で来られることも多く見掛ける。
和服の着こなしは見る人が見ればある程度のイメージが想像出来るもので、いつも和服で過ごしている仕事の方なら高い確率で判断することが可能で、料亭の女将や和歌子と同業の旅館の女将ということも時折に来られるのでそんな時は緊張しながら神経を遣っている。
今日もそんな感じのする方がおられた。部屋担当の仲居が案内して宿泊者カードにご記入をお願いした際に「和服の着付けが素晴らしいですね?」と言葉を掛けたら、着付け教室の先生だそうで。どこの旅館でも女将や仲居からそんなことを言われると答えられたそうだ。
それを聞いた和歌子はまた違った緊張が走った。夕食時に部屋に参上してご挨拶をする際に自分の和服姿をご覧になるからで、襟元、帯の結び方や位置などを確認するために仲居の休憩ルームにある姿見で確認をしていた。
今は亡き先代女将から厳しく指導をされていて印象に残っていることがある。それは足袋の清潔感で、どんなに立派な着物で最高の帯を身に着けていても足袋が汚れていたら「0点」というものだった。
館内には絨毯を敷き詰めている場所も多く、いつも業務用の掃除機で綺麗にしているつもりだが、歩くと埃が舞い上がるようで草履の鼻緒の部分が汚れるので気を付けている。
また、各部屋の清掃が間違いないかを確認に回る仕事も日課だし、大浴場の脱衣場の備え物を確認しなければならないところから、歩行距離は館内でもかなりの歩数になり、それだけ足袋が汚れる環境に接していることにもなるのである。
そこで和歌子はお客様の部屋へ参上する前に足袋を履き替えることにしており、それは仲居達にも通じる旅館の大切なイメージなので厳しく指導をしている。
昼食を済ませてから各部屋の床の間の花を活けるが、花を運ぶ時や活ける際に着物や足袋を汚してしまうことも多く、その仕事をする時は作務衣姿で行っている。
仲居達との会議の中で、寝具の片付けに入った際、すでに浴衣を脱がれて着替えられていることもあるが、浴衣の畳み方でもはっきりと推察出来ることがあり、和服に慣れている奥様の場合にはご主人の着ておられた浴衣の畳み方も決まっているという話題が出ていた。
日本人のお客様は部屋へお入りになる時や大浴場で履物を脱がれる時、整理整頓されるのが常識となっているが。韓国や中国のお客様には一部で全く考えておられないケースもあり、和歌子が部屋に入る前に整理整頓をすることも多い。
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