夕食をしながら懐かしい話に花が咲き、いつの間にか時間が午後9時を回っていた。
2人は別のホテルを予約してあるそうで、明日の夕食をパース市内のレストランで予約してあると聞いてから見送ることになったが、2人はそれぞれ明日の日中は予定があるので夫は部屋に戻ってから夕方まで何処かへ行けるだろうかと観光案内を見ていた。
さすがにこの日は疲れたみたいで、いつも服用する軽い睡眠導入剤も必要なく就寝することが出来た。
次の日の朝食はホテルのレストランのブッフェを利用。夫の大好物の小振りジャガイモ料理や万国共通の卵料理を中心にパンを食べたが、紅茶を注文したら好きなだけ飲めるそうでそれに合わせてミルクやレモンの輪切りを添えてくれた。
朝食後はスワン川に沿った公園を散歩。昼食を済ませてからタクシーで行ってみたい所があると夫が言っていたことに付き合うことにした。
昼食に選択したのはホテルの斜め向かいにある大きなカフェで、カウンターに並んで注文をして先に支払を済ませるシステムだが、テーブルの上に貰った番号札を立てておくと持って来てくれるのだが、注文していたパンケーキが半端じゃなく大きくて、その上に様々なフルーツが添えられてあり、それを見た瞬間に「これは半分以上残すことになる」と思ったが、その通りの結果となってしまった。
ホテルから交差点の横断歩道を渡る時にびっくりしたことがあった。歩行者の絵が入った青信号で渡り始めると半分も行かない内に点滅するからで。こんな状態では幅広い道路の横断は無理だと思うことになった。
夫は杖を手にして歩いているが、そのスピードは健常者と余り変わらないもので、なぜ点滅が始まるのだろうかと疑問を感じた夫婦だった。
昼食を終えてから夫が「行きたい」というところへ出掛けることにした。夫が英文で書いたメモをホテルスタッフに見せてコンシェルジュにタクシーを依頼していたが、スタッフ達が地図を開けながら調べているようで、あまり知られていないところなのだろうかと一抹の不安を抱いた嘉代子だった。
やがてホテルの玄関にタクシーがやって来た。ホテルスタッフと運転手さんが地図を手にやりとりしている。運転手さんもすぐに理解出来なかったみたいで、車内システムで会社と無線連絡をして確認し、やっと分かったようで後部座席に乗り込んだ。
ここでオーストラリアのタクシーについ触れておくが、一人で利用する時は助手席に乗るのが一般的と知ってびっくりしたが、後部座席にも自動扉のシステムはなく、利用客が自ら開閉しなければならない。また料金メーターも日本のように80円毎に上がって表示されるものではなく、10円ぐらいずつ上がって行くので忙しなくて血圧が上昇するので気を付けたい。
乗車したタクシーはスワン川に沿って走行し。しばらく行くと鉄道に並行する高速道路を走るのだからかなり遠いことが分かる。ホテルから30分ほど走ると目的地に着いたが、どう見てもタクシーがやって来る場所ではないので1時間後に迎えに来て貰うように頼んで入り口に行った。
そこは博物館で、古い時代の飛行機に関する展示があり、旅客機が登場した当時のパイロットや客室乗務員の制服もあって中々興味深い世界だったが、そんなに広くないので30分もあれば全てのコーナーの見学を終えることになる。そこで外に出て庭園内を散歩することにしたが、予想外に冷え込んで来て困っていたら、ふと見ると我々が来た時のタクシーの姿が目に入った。運転手さんが戻らずに待機してくれていたことを知った。
考えてみればそれが常識だろう。随分と市内と離れた場所にあるのだから無駄な走行をするべきでないという判断に至る。お蔭で寒いことから救われることになってホテルに戻ったが、エレベーターで自分達の部屋のあるフロアで降りて廊下を進むと、ワゴンを押した若い女性のホテルスタッフがプリントに目を通しながら各部屋のアメニティーなどを確認していた。
我々の部屋のチェックも済ませたが、気付いたことがあったので彼女が廊下に出た時に声を掛けた。それは服用する薬が多いので水の消費が多く、冷蔵庫に入っていたペットボトルを余分に補充でということで、それを理解した彼女は指を唇に当てて「内緒」というみたいな仕種をして規定外に2本のペットボトルをくれた。
もう1時間ほどしたら昨日の2人がやって来る時間であった。 続く
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