駐機場から5分ほどでバスがターミナルへ到着した。バスを降りてターミナルビルの階段を上がって税関検査場に向かったが、杖を片手にボストンバッグを抱える夫は大変だったみたいだが、嘉代子も土産物の手提げ袋を両手にしているのでどうにもならず、不運なことが帰国と同時に発生したものだと思ったが、現地で何も問題がなかったことは幸運だったと思い直していた。
全ての手続きを経てロビーに入ったが、夫はレンタルしていた「Wi-Fi」の返却に行かなければならず随分と遠回りをしてから国内線の方へ戻った。
夕方の国内線の乗り継ぎ便はびっくりするほど混雑している。札幌、名古屋、大阪、福岡便などが同じ時間帯なのでチェックインの行列が随分と長く、それぞれの乗客がいっぱい荷物を持っていることから預けるのに時間が掛かり、暑くて気分が悪くなるような環境の中で40分程並んでいた。
途中で札幌へ行く便の時間が近付き、スタッフが「札幌へ行かれるお客様はこちらへ」と案内して優先していたが、そのお蔭でまた10分ほど待たされることになった。
やっとキャリーバッグとボストンバッグを預け、土産物の手提げ袋を一つずつ持って大阪行きの搭乗口へ向かったが、廊下を10分以上歩いても着かないほど離れた場所だった。
利用するのは日本航空3007便だが、航空機ファンの間では知られる便で、なぜなら国内線なのに国際線使用機となっていたからだった。
機内の席に行くとびっくり。それぞれの席が独立した空間になっており、窓側の席に入る場合には肥満タイプなら通れないほど狭く、夫の席と並んでいても通路側の私の席が少し後方に下がっており、他人の場合には仕切りみたいなシステムが設置されていた。
国際線のビジネスクラスとして使用されているシートで、電動で水平にすることが出来るタイプで寝る場合には有り難いが、1時間と少しの国内線では無用の長物みたいになるが、「まあ話の種になるか」と夫が笑っていた。
伊丹空港まで行って大阪駅で在来線の特急列車に乗ると思っていたら、空港からバスで阿部野橋へ向かい、日本一の高層ビル「あべのハルカス」にあるホテルマリオットで1泊して、次の日の昼頃の列車帰る予定になっていた。
夫は高所恐怖症なのでこんな高層階のホテルは大嫌いだが。嘉代子のために選択してくれたもので、部屋に入ると同時に窓側のカーテンを閉めて外が見えないようにすることが条件となっていた。
伊丹空港に到着。荷物を取ってバス乗り場で切符を買って阿倍野橋行きのバスに乗るつもりだったが、出てしまった後で30分ほど待つことになるので隣の乗り場に停車していたバスに乗ることにした。
それは上本町行きで、近鉄の上六駅にあるシェラトンホテルの2階に到着するものだが、過去に利用したことがあるので夫が知っており、そこからあべのハルカスまでタクシーなら10分ということだった。
出発前に運転手さんのアナウンスで阪神高速の環状線が事故のために大渋滞しているらしく、梅田で降りて御堂筋、谷町筋を通って上本町へ向かうので通常時の倍の時間である1時間を要すると聞いた。
伊丹空港を出発してすぐに阪神高速道路に入ったが、もう渋滞が始まっていてイライラするほどだった。
梅田のインターで降りて大阪駅前を通った時には30分以上の時間の経過があったが、ここで降りることが出来たら在来線の特急列車に乗って帰れるのにと思った嘉代子だった。
そこから上本町まで25分ほど要した。シェラトンホテルの2階の裏側の玄関から少し離れた場所で降りることになったが、夫は「前は1階の玄関だったのになあ」と不思議そうな表情を見せていた。
2階のホテル玄関に移動したらタクシー乗り場があったが。10分待っても1台もやって来ず、「やはり1階の玄関に行くべきか」と夫がぼやき始めた時、ホテルスタッフらしい若い女性が通り掛かり、嘉代子が「ここ、タクシーはやって来るの?」と質問すると、彼女は申し訳なさそうに「しばらくお待ちください」と返すとそのまま玄関からホテル内部へ入って行き、2分も経たない内に戻って来て「私がご案内します」と我々の荷物を持ってホテル内へ誘導してくれた。
フロントのある館内ロビーに入るともう一人の女性スタッフが待ち構えており、嘉代子が手にしていた重たい土産の入った手提げ袋を持ってくれ、エスカレーターで1階へ降りて玄関へ行くと。別のスタッフが待ち構えていてタクシーのトランクを開けてくれていた。
それは短時間の内に完成させた見事な対応だった。そのチームワークがホテルとして素晴らしいと賛辞していた夫だが、あべのハルカスへ向かうタクシーの車内はその話題で持ち切りだった。
マリオットで予約されていた部屋は角部屋で俗に言われるコーナースイートだった。こんな贅沢をしなくてもと思った嘉代子だったが、高級感あふれるレストランで豪華な食事をと考えていたら、「食事に行こうか」と言われて夫に従って行くと、エレベーターは1階に向かい、外へ出掛けるのでびっくりだった。
何か特別な料理でもと思いながら路面電車の走る道を南に歩くと5分ほどで左折して細い路地に入り、「たこ壺」という店名のお好み焼き店に入った。
「黙って私が注文するものを食べてみなさい」と言い、焼きそばとお好み焼きを注文し、それから「明石焼きを二つ」と追加した。
出汁を入れる小さな器と三つ葉と薄いピンク色の生姜の入ったものがテーブルの上に置かれ、しばらくすると出汁の入った徳利みたいな器と共に板の上にぺしゃっとした柔らかそうなたこ焼き風の物が運ばれて来た。
そこで夫が大阪に在住する友人に教えて貰って何度か来たことがあると経緯について話し始め、今回のあべのハルカスのマリオット宿泊の目的がこの店にあったことを知った。
明石焼きは明石に行った時に食べたことがある嘉代子だったが、この店の明石焼きの味は秀逸で、夫に向かって「美味しい! 最高だわ」と感想を伝えたので夫も嬉しそうな表情を見せたが、その夫が食べている明石焼きの中から具の「「蛸」を取り出して出汁の入った器に入れているのでびっくり。タコ抜きの明石焼きなんてと思わず笑いそうになって呆れた嘉代子だった。
その店を出てホテルへ向かって歩いている時、夫は「秋に北海道へ行こう」と言った。今回のオーストラリア往復と現地の国内線でカンタス航空を利用したマイレージで、伊丹と千歳の往復が利用出来るというもので、出発前に夫婦で登録していたことを知った。
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