旅館業界も社会の流行に敏感に対処しなければならない。焼酎ブームがあれば全国の焼酎を調べ、人気のある焼酎をストックしておかなければならないし、「芋」や「麦」の基本的な異なり程度は勉強しておく必要がある。
テレビのCMからブームになった「ハイボール」もそうで、お客様から「ハイボールはある?」と聞かれて「ございません」というのも癪である。
最近は「ワインはあるの?」と言われることも増えているので勉強しているが、女将の和江はソムリエを目指しているのというぐらい取り組み、使っていなかった離れの部屋を改造してワインセラーまで作ってしまったのでスタッフみんなが驚いている。
しかし、料理長は和江の行動を理解していた。なぜならワインを注文されるお客様はそれぞれがワインの「通」だと思っておられるから。そんな思い入れの人達に納得の生まれる説得するには知識を得ておく必要があるからで、料理長も和食の中にフランス料理をイメージした創作料理もメニューに加えており、ワイン好きなお客様に対応している。
そんな知識を仲居達に教えることは大変だが、少なくとも赤と白とロゼぐらいは知っていて欲しいし、お客様からワインについて注文があればワイン専用のメニューで対応するシステムを構築しており、かなりのワイン通でも驚く充実となっている。
「女将さん、あのメニューをご覧になったお客様が『こんな旅館は初めてだ。ホテルのレストランみたいだ』とびっくりされていました」という仲居の言葉を耳にすると嬉しい和江だった。
そんな和江が忘れられない思い出がある。ワインについての講習会に参加、世界的に知られるソムリエと会食のひとときがあり、参加者の一人が「このお料理に合うワインは?」と質問したら、ソムリエは「こんな暑い時期は生ビールが最高です」と返されたからだ。
その時に学んだことがソムリエは料理の世界に長けており、中にはシェフクラスの人もいるというので驚き、料理長に様々な質問をするようになって知識も豊富になっていた。
これらはお客様と会話をする時に大いに役立ち、メールや手紙で宿泊時の感想を送ってくださるお客様が「女将が料理とワインに精通していたので驚いた」というのもあり、和江はそんな言葉を何よりの励みとしていた。
日本酒ひとつにしても「燗」が合う品種もあるし、冷酒に向いている物もある。これらも分かり易いメニューを用意して好評を得ている。
お酒を一切飲まれないお客様もおられる。そんな対応に様々なソフトドリンクが存在しているのもこの旅館の特徴。ソフトドリンク専用のメニューをご覧になったお客様の表情が嬉しそうな光景が和江の描いたサービスの世界だった。
コメントはこちらから
あなたの心に浮かんだ「ひと言」が、誰かやあなた自身を幸せに導くことがあります。
このコラム「フィクション 女将、ソムリエに憧れ」へのコメントを投稿してください。