夕食時にご挨拶に参上したら、お客様から面白い話を聞いた。それはJRの山梨駅から10分ほどで行ける場所にある日帰りの入浴施設で、通称「ほったらかし温泉」というのも面白いが、館内にある浴場の案内も「あっちの湯」「こっちの湯」になっているそうで女将の園子も行ってみたいと思うことになった。
富士山が見えるということも人気が高いそうで、朝の4時からオープンして夜明けの富士山を眺める目的の人達が多く、そのために朝食も準備されていることを知った。
温泉地も様々な取り組みをしなければならない。情報誌を読んだら行ってみたい温泉のアンケート調査で東日本では「草津」「下呂」「箱根温泉郷」「熱海」「奥飛騨郷」の順になっており、西日本では「湯布院」「別府」「黒川」「城崎」「道後」の順だった。
何れも歴史もあるが集客に取り組んでいる姿勢が評価されているみたいで、園子の温泉地も何か考えなければという会合を何度も開いていたが、具体的にどうするというような結論には達しておらず。疲弊するホテルや旅館の噂も流れ、将来が暗くなる現実を迎えていた。
行政、観光組合の両者が会議を重ねるようになってからもう10年になるが、社長会、女将会からも画期的な発想は生まれず、このまま忘れられた温泉地になるのではという危機感だけはそれぞれが抱いていた。
悪循環に陥ると各社が広告宣伝費を減額することも仕方がないが、それらは確実に存在感を希薄化させ、旅行会社の窓口さえも避けるようになるのでまるで坂道を転げ落ちる状態になってしまうのである。
そんな中で、ある旅館の後継者が面白い提案をした。それは、この温泉地の源泉が1カ所ではない事実で、各宿泊施設が「かけ流し」で提供されている源泉も異なる筈で、その事実を公表して温泉ファンに情報を発信するというものだった。
調べてみると8カ所の源泉に分かれており、それぞれの温度や泉質にも違いがあることが判明したが、どこも同じ温泉と思われていたことも事実であり、今回初めて分析されることによって驚く結果が出たのである。
行政の保健所や温泉研究で知られる大学教授に調査を依頼したら、源泉によって効能も違
なり、少し明るい希望が出て来ることになった。
「**温泉」となっていたら、そこに存在するホテルや旅館の湯が全て同じと思われてしまうが、こんな事実を提供する側が考えていなかったことは勿体ない話で、それこそ怠慢であると皆で反省と後悔をする出来事だった。
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