全てのお客様がチェックアウトされた後、女将の優華はフロントのスタッフ達を集め、今朝の対応で改善するべきことがあると指摘した。
5年前に亡くなった先代社長が口癖のように言われていた言葉に次のようなものがあった。
「わしは医者、理容店、飲食店で待たされることが大嫌いだが、最も嫌いなことはお金を支払う時に並ばされて待たされることだ」
あるスーパーマーケットが経費削減からレジのスタッフを減らせたら、お客さんが並ぶことが多くなり、数日後には目に見えるように売り上げが落ち、お客さんが並ばなくなった現実は同業他社に流れていたという事実という話がある。
女将は、そんな話をしながら、チェックアウトの精算時に待たせてしまったお客様があったことに深刻な問題があると指摘した訳である。
お客様の中には担当の仲居を呼ばれて部屋で精算をされるケースもあるが、やはり大半のお客様がフロントに来られるので待たせてしまうことになる。
そんな時は事務所のスタッフをフロントに回し、窓口を増やすことで対応するべきと提案したが、お帰りになるお客様を玄関で見送る立場の優華にはそれを見ながら歯痒い思いをしていたと伝えた。
副支配人が次のような提案をした。
「如何でしょうか、フロントでのチェックアウトでお待たせすることがございますので、お部屋でのご精算も承っておりますという表記を各部屋に準備するのは」
それも一案だが、お客様の立場から考えてみれば、部屋の鍵を返却することもご出発までの通過儀礼的なひとときということもあり、自主的に部屋で精算をと言われる以外は何か強制するような感じがして抵抗があると答えた優華だった。
続いて副支配人は次の提案をした。それはフロントデスクではなくロビーのソファーに掛けていただきチェックアウトを対応するというもので、タイ国際航空がバンコクの空港でファーストクラスとビジネスクラスのお客様に限ってそんな対応をしていると加えた。
チェックアウトの精算時にあって気を付けなければならないことは宿泊予約料金の勘違いや飲み物の追加金、また、売店での購入金額のチェックミスで、コンピューターの入力ミスがあればトラブルに発展する危険性があるからで、フロントならそんな対応が可能だが、ソファーで担当だった仲居が対応するとなると研修が不可欠である。そこでその教育についてフロントの主任と副支配人に任せるということになり、午後一番から進められることになった。
また、想定外という言葉で逃げる考え方が大嫌いな優華は、もしも落雷になって停電が発生してレジ対応のコンピューターの機能がストップしてしまった際のことも想定し、お客様に負担を掛けないように考えなさいと命じていた。
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