祇子(まさこ)が女将をしている旅館が観光雑誌の取材を受けた。写真入りで2ページも掲載された記事紹介のお蔭で予約の電話がびっくりするほど入っているし、それからHPのアクセス数はこれまでになかった数字を記録することになり、事務所スタッフ達が驚きながら緊張態勢で臨んでいた。
取材のきっかけになったのはあるご夫婦のお客様のお話からだった。夕食時にご挨拶にお部屋に参上した際に伺ったご夫婦の辛い現実の問題で、糖尿病と膵炎をそれぞれが持病となり、何処へ出掛けるにも服用する薬が欠かせないし、食事制限があるので楽しみが半減されたというものだった。
その話を聞いてから真剣に取り組んだのが祇子で、料理長に相談する前にお世話になっている医院の先生の紹介で管理栄養士の方に来館をお願いしてアドバイスをいただいた。
お蔭で料理長が「病院食」と笑うことになった3種類の特別食の対応が可能となり、それが話題となって取材ということになったものだった。
高血圧の人が多いし、仲居の話によると食前の薬を服用されるケースも頻繁に目撃しているとのこと。減塩の食事や糖分を抑えた味付け、また揚げ物を避けた料理なども患者体験をされた方々には不可欠で、そんな説明を訴えられる前に選択可能な料理の存在があると知られると大歓迎されるのである。
考えてみれば予約の電話を受けた際に食事に関する細かいご希望をされたケースもあるし、予約の電話の後に持病のことや料理に関するご要望をFAⅩで送信されて来ることもあった。
また送客される旅行会社からの予約表に添付される情報にご病気や特別食に触れられていたこともあったので、もっと早くに具現化するべき問題だったが、気付きからお客様が増えたことは何より有り難く、スタッフや料理長が「さすがに女将さんだ」と持ち上げられているのも悪い気はしない祇子だった。
ホテルや旅館などの業界も厳しい時代を迎えている。外国人観光客が増えても次々に新しい宿泊施設がオープンしているし、つい最近も青森で知られるホテルや両陛下がご利用された九州平戸で有名な旅館が経営不振から民事再生というニュースもあった。
どこの観光地のホテルや旅館もリニューアル工事が次々に行われており、宿泊料金を高額にしても人気が高い露天風呂付き客室を増やしている。
何か特徴的なことを打ち出して話題を呼んでいるところもあるが、祇子の知る中に館内の床の全てが桐板というところもあるし、廊下は全て畳敷きをいうところもあるが、びっくりしたのは浴場の床が畳敷きというものだった。
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