里枝が女将をしている旅館の最寄り駅は在来線の特急列車の停車駅だが、午後4時過ぎに普通列車で到着されるというお客様があり、近くの方か何処からかの途中と思っていたら都内に在住される方で、予約担当者の話によると「青春18きっぷ」を利用されるそうだった。
里枝は2人連れの予約なので若い方と勝手に想像していたら、迎えに行ったワゴン車で玄関に到着されたのは50代のご夫婦。<どうして?>と思っていたら、お部屋へ仲居が案内して行った後、フロントスタッフが「青春18きっぷ」について教えてくれた。
「女将さん、青春18きっぷが登場したのは1982年の春で、当時は『青春のびのびきっぷ』と呼ばれていました」
そんなきっぷのイメージに若い学生達向けと思った里枝だが、当時から年齢制限はなかったそうで、子供運賃の設定もないことを教えられた。
普通列車と快速列車なら全国何処でも利用出来るという便利でお得感のあるきっぷで、発想そのものは学生の休暇の時期に合わせて春季、夏季、冬季となっていたが、現在は利用可能期間に5回か5人が利用出来るようになっており、乗車当日は24時まで途中の駅に何度でも途中下車が可能なので乗り鉄など鉄道マニアに人気が高いそうだ。
フロントスタッフは元旅行会社に勤務していた歴史があり、こんな情報にも詳しいが、全てのお客様がチェックインされてから詳しく教えて貰ったことが面白かった。
「女将さ、全国には普通列車が運転されていない区間がありましてね、その場合は特急列車の自由席を利用出来るのです」
その区間は北海道の石勝線の新夕張と新得間や宮崎空港線の空港と宮崎駅間、奥羽本線の新青森と青森駅間などが対象となるそうだが、今春に開業する北海道新幹線でも青函トンネル内を走行する普通列車がないところから、企画乗車券で新幹線を利用することが出来ると解説してくれた。
分かり易く言えば1日乗り放題ということになるが、特急料金の必要がないので随分と割安になるし、時刻表を調べて長距離を利用しても、同額料金なので鉄道マニア向けであるのは間違いないだろう。
今日のお客様だが、お部屋にご挨拶に参上した際、もうすぐジパング倶楽部に入会出来る年齢ですと言われたが、里枝がフロントスタッフから教えて貰った「おとなび」について受け売りしたら会話が弾み、スタッフが改めてお部屋で説明することになった。
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