女将の澄子は55歳。旅館の社長は2歳年上の夫が務めているが、夫の趣味はゴルフ。観光組合の仲間達と月に2回は地元のゴルフ場へ出掛けているが、半年毎に観光組合が主催する大きなコンペが開催されており、飛び賞に宿泊券が当たるので地元の人達だけではなく隣接している町の人達の参加も多く、いつも定員になって締め切っているのだから驚きである。
澄子はゴルフをしないが、一度だけ夫に誘われて女子プロのトーナメントの最終日に観に行ったことがあった。
夫は大山志保プロのファンで、応援するきっかけとなったのは過去に行われていたトーナメントに行った際の出来事からで、スコアカード提出所から出て来る選手達のサインを貰おうと待ち構えていたら、出て来たある女子プロからハエを追っ払うような仕種をされて憤慨していたら、それを目撃していた大山プロが近付いて来てくれて快く対応してくれた出来事があったからだ。
その時の気分を害したプロは引退してタレントみたいなことをしているみたいだが、テレビ番組に彼女が登場するとチャンネルを変えてしまうぐらい毛嫌いしているが、トーナメントの中継で大山プロが好成績で画面に登場すると嬉しそうに応援している。
大山プロは職業病みたいな症状からしばらくトーナメントから遠ざかっていたが、やがて復帰してから好成績を記録、トーナメントで勝利したこともあって夫も嬉しそうに彼女の公式のHPにお祝いの言葉を書き込んだりしていた。
そんな彼女がフジサンケイレディスに優勝し、その獲得賞金全額が所属する女子プロの組織団体「ⅬPGA」を通じて熊本県の被災地へ寄贈すると発表して話題になっていたが、それを知った夫が「如何にも彼女らしい」と賛辞しながら、また公式HPに書き込むための文章を作成していた。
夫の話によると、彼女は高校生時代に7年間を熊本県で過ごした体験があるそうで、多くの友人達も被災している事実を知って心を痛めており、ラウンド中に被災者のことを思い浮かべながらパワーをいただいて優勝出来たと語っていたそうだったが、彼女に対するフアンとしてますます応援するパワーが強くなるのは間違いないようである。
ゴルフのことが余り分からない澄子だが、女子プロのトーナメントでいつも韓国の選手に負けていることを新聞やニュースで知っており、日本人のプロ達の不甲斐なさに残念に思っていた中で今回の結果となって嬉しくなった夫婦でもあった。
夫には夢がある。いつか観光組合のコンペに彼女を招いて始球式をお願いしたいそうだが、それは絶対に無理だろうと想像していた澄子は、今回の彼女の行動から夫と彼女を応援にトーナメントのギャラリーとしてもう一度行ってみたくなり、「大山志保プロ頑張れ!」と思っていた。
コメントはこちらから
あなたの心に浮かんだ「ひと言」が、誰かやあなた自身を幸せに導くことがあります。
このコラム「小説 女将、大山プロに拍手」へのコメントを投稿してください。