チェックアウトされた全てのお客様を玄関で見送っていた女将の匡恵が花壇に水を撒いていると、事務所スタッフの責任者である山野がやって来て、「女将さん。来年のことなのですが」と予想もしていなかったことを伝えた。
それは今年の祝日が16日もあったのに、来年は土曜日に重なることが4回もあって祝日が4回少なくなるという事実だった。
365日間の中の4日と言えばそれまでだが、祝日が週末と重なってしまうことは旅館業にとって小さくない影響が生じる問題で、国や行政が月曜日に振替休日に設けてくれたらなんて勝手なことを言う山野に苦笑いの表情を見せる匡恵だった。
ロビーに戻ると社長である夫が今日の朝刊を読んでおり、匡恵に記事の中の面白い話題を教えてくれた。
それは最近にブームとなっている「猫」だが、猫が女将をしている旅館が全国各地に存在しているそうで、その可愛さがりぴーたーに好影響を及ぼしているというものだった。
猫が駅長をしていたニュースもあったし、その猫が亡くなってしまって駅舎で社葬をしたら多くの会葬者があった出来事も昨年にあったが、大阪の宗右衛門町にあるホテルの支配人役になっているのは「ウサギ」という特集番組を観たこともあった。
この「ウサギ」は宿泊して外国人の客が託して行ったペットだったそうだが、スタッフのアイデアから支配人に就任させたら話題となり、外国でのブログでも紹介されて広まっていた。
猫を女将に就任させている旅館のことについて夫が調べたら、共通しているのは大人しくて愛くるしい性格で、誰にでも甘える仕種をするタイプが歓迎されるみたいで。フロントのデスクに横たわってお客様を迎える猫女将もあれば、ロビーや大浴場をウロウロする猫女将まで様々なタイプがあるそうだ。
今日は緊張する嬉しいお客様を迎える。大手旅行会社が企画した1泊2日のバスツアーなのだが、このバスが最新型の超デラックスタイプで、定員が18名というもので、到着したら車内を見学させて貰おうとスタッフ達が話題にしていた。
そんなところからこのツアーの参加料金もびっくりするほど高額だが、すぐに満席となったという事実を知って驚きながら、匡恵の旅館を利用してくれることに対して心から嬉しく思いながら、スタッフ一同で「おもてなし」に徹したいと考えていた。
列車の旅も次々に観光列車が登場し、単なる移動手段ではなくなって来ているが、バスツアーも同じみたいで、次々に高級感のある車内空間を打ち出す新型車が登場している。
夫は、5年ほど前からそんな予見をしており、列車のクルーズや高額なバスツアーで利用して貰える旅館にならなければと積極的に行動して来ており、館内のリニューアル工事も終わっているし、旅行会社への営業アプローチが実を結んだかたちの今回で、夫も誰よりも歓迎の姿勢が強く、数日前に料理長に頼んでウェルカムフルーツとして「サクランボ」を用意していた。
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