翌朝、女将と支配人に最寄り駅まで送って貰い、そこから在来線の特急列車で博多駅に向かったが、博多駅ですぐ近くに在住する親戚の人物と会い、持参して来た手土産を渡して1時間ほど話して来た。
新幹線の切符を購入しようと構内を歩いて「みどりの窓口」へ向かったが、その途中で夫のことを思い出してしまい、急に立ち寄ってみたい所へ行くことにした。
「みどりの窓口」で購入した指定席券は、「のぞみ」で小倉駅まで行って日豊線の「特急 ソニック」に乗り換えるという行程。行先は小倉から40分ほどの宇佐駅だった。
宇佐駅は「宇佐神宮」があるので知られているが、目的はそこに参拝することではなく、いつか夫から行ってみたいと聞いたことのあるところだった。
夫は学生時代に「鉄道度倶楽部」に入部していた歴史があり、知る人ぞ知る鉄道マニアで、「乗り鉄」「録り鉄」を自負しており、撮影した写真の数枚が旅行雑誌に掲載されたこともあった。
交流する人達の定期的な会合に夫の旅館が会場となっていたこともあり、笙子も参加された方々と顔馴染みとなっていたが、そんな中で交わされていた「USA」という言葉に興味を抱き、それがアメリカ合衆国のことではなく「宇佐駅」のことだと知ることになった。
夫が行きたいと言っていたのはその「宇佐駅」からタクシーで10分ほどの豊後高田市にある「昭和の町」で、映画で話題となった「三丁目の夕日」の光景が見られる世界があると言い、「宇佐駅」で写真を撮って昭和の町へ一緒に行こうと言っていたことが叶わなくなってしまったことが無性に悲しく、夫の思いを自分が代わってという心情になって立ち寄ることにした訳であった。
在来線の小倉駅のホームにいると夫婦らしい高齢者がおられ、男性が女性に乗車する列車の解説をしており、「この人もかなり鉄道に詳しい方だ」と思った。
「あのね、ソニックは博多からやって来て、この小倉駅から反対方向に走って別府や宮崎方面へ向かうんだ。ソニックには青いソニックと白いソニックがあって、今日乗車するのは白いソニックで、長崎の方へ走っている『特急かもめ』と同じタイプの列車だから」
そんな会話が聞こえていたが、それは随分前に夫から聞いたことがあり、改めて懐かしい昔を思い出してしまった。
そんな「白いソニック」が到着、指定席に座って前方の席を見ると先程の会話の夫婦も同じ車両だと確認した。どこまで乗車されるかは不明だが、会話の中に「別府」の地名が出ていたこともあり、自分が降りる「宇佐駅」よりも先に行かれるようだと推察していた。
列車はやがて「宇佐駅」に到着。数人の乗客が降りたがホームも駅前も閑散とした雰囲気で、そんな中で駅名を表示する看板の「USA」という文字が何か不思議な波長を与えてくれるような感じがして、ここに来た甲斐があったと思う笙子だった。
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