東京のホテルで行われていた全国女将会の研修会に参加したが、業界の将来について危機感を抱くべきと言う講師の言葉に考えさせられた稲子だった。
北海道のリゾートとして知られているトマムが中国資本になってしまったこともあるが、知られる温泉地にも中国資本が投資されて経営が変わっているところもあり、その流れが想像以上に速いという指摘もあった。
世界的に雪質が良いと言われて人気の高い北海道のニセコスキー場も、過去からヒルトン系のホテルが存在しているのは知られているが、リッツカールトンやパークハイヤット系のホテルが進出する情報も流れている。
稲子が女将をしている旅館がある温泉地は辺鄙なところだが、過日の観光組合の会合で疲弊状況に陥っている旅館の社長が「中国人が買ってくれないかな」と独り言みたいに呟いていた言葉が気になった。
稲子の旅館は恵まれている。先代社長の先見性からリニューアル時に耐震対応も出来たし、流行するであろうと贅沢な露天風呂付き客室を増やしたことがよかったみたいで、高額な料金なのに客室稼働率がこの温泉地では群を抜いてトップにあった。
先代女将の趣味が高じて作ってしまった花畑が功を奏し、館内の花は全て賄えるし、現在の料理長が自家栽培の野菜に拘っていて自らも栽培しているのだから好循環となっている。
旅館は設備というハードな部分より「おもてなし」というソフトが重視されているが、現実的な問題として基本的なハード部分は不可欠で、大浴場やお食事処の充実は欠かせない問題である。
ソフトに関しては「人」に尽きるが、自社でスタッフ研修を実施しているだけではなく、交流のあるホテルや旅館で研修従事という制度も積極的に行われており、他社で良いと言われることは検討の上すぐに採り入れたことも少なくなく、各部屋へ加湿器を設置したのもその一つだった。
最近に取り組んでいるのが部屋の香りの問題で、全室禁煙としているのに内緒で喫煙されるお客様もあり、そんな部屋をどのように対処するべきかというテーマで、研修会で知ったその道のプロに依頼して進めている。
また、あるお客様に指摘されたことから取り止めたこともある。それは宿泊くださったお客様にお願いするアンケート用紙だが、チェックアウトされる際に「アンケートをしているようなホテルや旅館は一流にはなれないよ」と言われたお客様の言葉に強烈なインパクトを感じ、それから一切しなくなったのは半年前のことだった。
ある女将仲間が入院している先代女将にアンケートを始めた結果を持参して報告したら叱責されたという体験談も印象に残っている。「96点や99点の点数を付けてくださってもそれはご満足に至っていないということです」と指摘されたそうだが、稲子はその意味が最近になって理解出来たように思っている。
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