西武系列の百貨店や三越伊勢丹系列の百貨店が一部閉業するニュースがあった。そんなニュースの中に静岡県の掛川にあるリゾート「ヤマハつま恋」も12月25日で閉業するという寂しいニュースもあった。
「ヤマハつま恋」には亡くなった先代女将と一緒に何度か行ったことがあり、由紀子は若女将の時代を懐かしく思い出してしまった。
由紀子のお気に入りは充実した夕食のバイキングだったが、先代女将はホテルから少し離れた所にある「森林の湯」で、リゾート内を走る巡回バスで移動してもすぐ近くだった。
由紀子は湯上りに「失礼ですが」と断って生ビールを飲んだが、先代女将はアイスクリームが好物で、「ここのは最高よ!」と笑顔を見せていたのが懐かしい。
初めて行った時は新幹線の掛川駅からタクシーで行ったが、2回目の時は由紀子が運転する車で行った。
それから数日後のことだった。先代女将が「腰が痛み出した」と言われて予約をせずに出掛けたら、生憎と満室でどうにもならず、仕方なくネットで宿を探していたら「倉真温泉」が見つかったが、予約が済んでホッとしながらも、真っ暗になった山の中の道路を走行して「こんなところに本当に温泉旅館が?」と心細くなったことを憶えている。
「倉真」と書いて「くらみ」と読むことをその時に初めて知ったが、夕食に牡丹鍋が出て来て苦手な由紀子が手を付けなかったら、「何でも食べなさい」と先代女将に説教をされた出来事もあった。
旅館の裏手にある駐車場に車を停めていたが、次の日に行ってみたらびっくり。大きな石碑の前に停めていたからだった。
先代女将は「温泉の湯は中々のもの」と称賛していたが、旅館の後継者に嫁いで若女将と呼ばれるようになってから間もなかったので、温泉の湯についての薀蓄は理解出来ていなかった。
由紀子の旅館がある温泉地の湯は泉質が優れていると知られているが、ご利用くださったお客様から「ここの温泉の湯は最高だね」と言われると嬉しくなり、先代女将のことを思い浮かべてしまう由紀子だった。
先代女将のお気に入りだった「ヤマハのつま恋」の森林の湯だが、充実していた夕食のバイキングの光景を思い浮かべながら、夫と閉業までにもう一度行こうと思っている。
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