この時期になるとスタッフ達が張り切って仕事をしている。3年前から展開している宿泊企画が話題を呼び、昨年から予約がいっぱいになっているからである。
女将の喜久子はこのプランで来られるお客様には特に神経を遣うように伝えているが、何と言っても宿泊料金が「お一人様50000円」となっているからだ。
社長が夫だが、社長は中学、高校時代に同じ学校に通っていた友人とずっと交友関係が続いており、8年前からその有人の家が先祖からずっと地主をしている山の中で、最も赤松が多くあって松茸が期待出来る山の権利を締結しており季節的な「松茸づくし」などの料理プランを謳っていたが、会議を経て決定することになった企画が地主側の了解が得られたところから、3年前からその企画を実施していたものであった・
そのプランは「山の中を散策して松茸を採取しませんか」というもので、運が良ければお土産まで松茸が持ち帰られることから話題が広まり人気が高まったものであった。
この企画会議の時、山の中へ入るにはそれ相応の服装や対処が必要なので、申し込まれた方に文書で説明書を送付する予定で進めていたが、喜久子が「ご家族で内緒で来られているお客様もあるかもしれない」と反対して却下され、HPに専用ページを設けて対応することにしている。
ヘルメットは旅館側で準備しているが、サラサラした生地のジャンパーや女性はスカートでなくスラックスでというようなことを細かく説明している。
ご夫婦で予約されている方。ご家族数人で参加をされる方。友人グループで来られる方々など様々だが、皆さんがその日の夕食の料理を期待されており、料理長が自信を持って進める「松茸コース料理」で、すき焼き、土瓶蒸し、焼き松茸も入っている。
旅館に集合する時間は午後1時、山まで車で約30分なので地元のバス会社のマイクロバスを頼むことになるが、この企画には損害保険にも加入している。
新しいことを始めて事故が発生したら「しなかったらよかった」と後悔することになる。だから最悪の想定を考えて対処することが重要なのだが、何事に対してもネガティブに考えてしまう夫の性格から保険の加入は不可欠なものであった。
「参加者が滑って転倒して骨折入院でもしたらどうする?」と会議で発言したのも夫だが、自身で山に入って松茸を発見した時の喜びをお客様に体験させて上げたい思いから決断に至った。
昨年前では各部屋での個別の食事となっていたが、2年間の参加者へのアンケート調査から参加者が顔なじみになっているので一緒にと考える要望も今年から可能となっている。
夫の友人もこの企画に同行してくれるので有り難いが、彼から日頃の山の手入れの大切さを教えられ、初めて知ったこともあり、それらを参加者に伝える啓蒙もしている。
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