女将の春香は、社長である夫と在来線の特急列車を利用して名古屋へ行き、百貨店で高級品であるメロンを「お見舞い」と書いて貰って包装して来た。
地元の近くに果実店があるが、そこのメロンは2800円。見舞いとしてと持参するならやはり百貨店の包装紙に意味があるというのが夫の考え方で、1個「12000円」もしたのでびっくりした。
夫がもう一つ買いたい物があり、その売り場で購入してからまた特急列車で戻って来たが、次の日に昼食を済ませてから県立病院に入院している女将会の会長の組合長婦人を見舞った。
病室には数々の見舞い品が置かれてあり、彼女の広い交流が垣間見られるが、過去にお見舞いで起きたハプニングを体験した話が知られており、温泉地でその出来事を知らない人はいないぐらいだった。
組合長の関係のある人物が入院。名古屋まで出て百貨店で「お見舞い」の品を購入して持ち帰り、夫である組合長が病院へ持参したのだが、その日の夕方に病室を訪れた奥さんから電話があり、大変なハプニングが発覚した。
購入時に店員さんに「お見舞い」と依頼したのに、同じ品をもう一つ購入されていた人があり、そちらは「お供え」だったのを間違って渡してしまっていたのである。
法要などの方へお見舞いなら何とか収まりが着くが、「お見舞い」する病院へ「お供え」を届けたらどうなるだろう。嫌味やブラックユーモアの世界を超越し、それこそ失礼という問題で済まない複雑な怒りということになるのは当たり前である。
この電話から女将会の会長が夫の組合長から激怒を受けたのは当たり前だが、納得の行かない彼女は百貨店に電話を入れ、もう一人のお客さんのこともあって調査して貰うことになった。
驚いた百貨店側はすぐに調査を始め、売上伝票に入っている時間帯と金額からもう一人の方はクレジットカードを利用されていることが判明した。本人持参ではなく宅送の場合なら住所、氏名、電話番号が記載されているのですぐに対応が可能だが、クレジットカードならカード会社に事情を話して住所や電話番号を教えて貰うことを要請しなければならないが、カード会社の担当者は「お客様の個人情報を弊社から百貨店様に明かすことは出来ません」と断られたが、事情を伝えたらクレジット会社側からもう一方のお客様に連絡を入れて確認するという対応をしてくれることになった。
相手のご本人が自宅におられたのですぐに事情が判明したが、「お供え」を届けた相手はそその方の友人のお父さんの満中陰法要の物で、そちらから「お見舞いと書いてあったけど?」と問い合わせの電話があって驚いたそうだった。
これで判明したのは互いが間違って渡された物を持ち帰って届けたものだが、両者に百貨店の担当者が謝罪に訪れて解決に至ったが、時に神様は信じられない出来事を与えることもあるものである。
お見舞いは「熨斗」なしの紅白の結び切り無地のシンプルな封筒を用いればよいが、日本人は語呂合わせに気を遣う慣習もあり、花を持参する場合にシクラメンが「死」「苦」を連想させるとか、自分の入院時にスリッパを売店に買いに行った体験もあってスリッパを見舞い品として持参するケースもあるかもしれないが、これは入院が長引くという縁起が絡むのでNGと理解しておきたいものだ。
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